サンダル先生R 月曜日 22 同情するなら
2007年12月10日詰所に戻ると、その彼女はいた。
「ささ、この掲示板見てくださいな」師長が疲れ切っていた。
「うわ・・・」急いで1つずつ処理。
「じゃ、お疲れさーん」
「ああ」
「あ。これ」メモをもらったが<送別会:焼鳥屋20時>
これから重要なムンテラもあるし、行く気になれない。
椅子をいくつか持ち上げ、カンファレンス室へ。
そこでは、例の肺線維症の方の家族らが待つ。僕から見て右が姉。左が妹。その両端に家族・親戚多数。
「スタッフ一同と話し合いました・・・」
「どうするんですか?」と豪快そうな姉。
「ステロイドの点滴を3日間行いたいという私の意見を試みようという結論でして」
「それをすると?良くなるんですね?」
「保証はできません。副作用はそこのメモに」
「ふーん。分からんわわしら。素人だから」
「始めるとすれば、早めが好ましいです」
「今日とか?」
「ええ」
「どうする?」姉が妹に聞く。
「悪くなるんやったら、してもらいたくない」
「確実なことは、しなければ病態がそのまま進行するということです」
「じゃあ、せんといかんやんか!」
「・・・・・」
「姉ちゃん。しようや。うまくいかんかったら、大学病院訴えたろや」
「そやな」姉は堂々と頷いた。
「・・・・・では本日より3日間」
「も、帰っていい?いいんやな?頼むで先生」
「準備します」
「ったく。大学のドクターら。癌だけ治して患者殺す気か・・!」
殺意を感じるくらいの姉の言葉だった。
「そしたら出て行けって。抗癌剤はもうやめたから、することはこれ以上ないって・・・!」
姉は歯を食いしばった。ただ、その怒りを、その目線を・・・僕にそのまま向けないで欲しかった。
部屋に入り、クリーンベッドで囲まれた患者さん本人へ説明。すると、さきほどの姉が入ってきた。
「先生。それと、この血の跡はなんやねん?」
「う・・・?」確かに、採血の跡が何か所もある。採血の失敗が続いたのか。
「採血したんやろ?ちゃんと血、止めてあげてえな!患者さんが何も言わんと思って!」
「それは・・」
「別にな。先生に言うとるわけやないで?でもな、こっちはアレおかしいなと思うんや。素人でもそう思うわけやで。先生が主治医なんやからそこはしっかりせな!」
「・・・・・」
点滴をセット。ポトポト滴下。時間はそうかからない。
患者さんはじっと点滴を見上げている。僕らもだ。
姉はドアを開けた。僕も出口のほうへ。
「じゃ、あたし朝早いから。妹ももう帰るんで。あたしら仕事もしてるんで」
「ええ。連絡先はここでいいんですね」
「任せてんねやから。よほどの時にしてよ!」
「・・・・・」
「じゃ!」
点滴が終了、妹も立ち上がり無言で去った。
こういう時、何て言葉をかけていいのか。
患者さんはスースー眠りに入った。モニターは変わらず。今のところ血圧は・・急な上昇はない。暗闇に、懐中電灯を持ったナースが現れる。
「あ。びっくりした。先生がいる」
「しっ!・・・俺もそろそろ帰るわ」
「1回、電話入れる」
血糖測定や血圧上昇時の指示を書き込み・・・・。
廊下へ出るとそこには。
「やあ先生!」23歳の若者だ。
「どっか行ってたのかい?」
「ヒック。別にどこも」
「酒飲んでるのか?」
「嫌だな先生。しゃっくりだって今のは!あ。ケータイ鳴ってる」
「おい。ここでケータイは!」
「もしもーし!」
彼は非常階段へ。
別の夜勤ナースがやってきた。
「先生。あの若い人、ひとつも言うこと聞きません」
「事務長に報告だな」
「いっしょの部屋の人が、買い物とか行かせてるみたいですよ」
「何の?」
「酒ですよたぶん」
「没収しないと!」部屋に向かった。
「ダメ先生!5年ほど前、それで大変だったから!」
「なに?」
「主治医の先生が探しに行ったら泥棒呼ばわりされて」
「その先生は?」
「ノイローゼになって・・・」
「辞めたのか・・どある」
部屋も電気が消してある。警察のように踏み込むわけにもいかず・・・悔しいが見送った。
「だる・・・ホントにダルい1日だったよ・・・」
独り言を言ってると、後ろから背中を突かれた。
「いてっ!くそなに!」
「行きましょう!先生!」事務長だ。
「送別会か?やめとく。今日は・・」
「先生が来なけりゃ、始まらないって皆が!」
「まさかお前・・戻ってきたのか?」
事務長は、わざわざ焼鳥屋から戻ってきていた。
「それと先生。今日の1件はすんません」
「何が・・ああ。あれか!そうだてめえ!」
「うわっこわっ!」
「医療対策課に言うぞ!」
怒りが怒りを呼んだ。イラついてたのも関係した。
「・・・・今後気をつけますんで。さ、行きましょう」
待たせたタクシーに事務長は乗り込んだ。
「酒は飲まなくてもいいんで!先生!さ!」
「行く気がしねえよ・・」
「どうか!同乗を!」
「同情・・・するなら・・・」
僕は力なく倒れこんだ。
「カネ、返せ・・・・」
眠り込んだまま、タクシーは出発した。
「ささ、この掲示板見てくださいな」師長が疲れ切っていた。
「うわ・・・」急いで1つずつ処理。
「じゃ、お疲れさーん」
「ああ」
「あ。これ」メモをもらったが<送別会:焼鳥屋20時>
これから重要なムンテラもあるし、行く気になれない。
椅子をいくつか持ち上げ、カンファレンス室へ。
そこでは、例の肺線維症の方の家族らが待つ。僕から見て右が姉。左が妹。その両端に家族・親戚多数。
「スタッフ一同と話し合いました・・・」
「どうするんですか?」と豪快そうな姉。
「ステロイドの点滴を3日間行いたいという私の意見を試みようという結論でして」
「それをすると?良くなるんですね?」
「保証はできません。副作用はそこのメモに」
「ふーん。分からんわわしら。素人だから」
「始めるとすれば、早めが好ましいです」
「今日とか?」
「ええ」
「どうする?」姉が妹に聞く。
「悪くなるんやったら、してもらいたくない」
「確実なことは、しなければ病態がそのまま進行するということです」
「じゃあ、せんといかんやんか!」
「・・・・・」
「姉ちゃん。しようや。うまくいかんかったら、大学病院訴えたろや」
「そやな」姉は堂々と頷いた。
「・・・・・では本日より3日間」
「も、帰っていい?いいんやな?頼むで先生」
「準備します」
「ったく。大学のドクターら。癌だけ治して患者殺す気か・・!」
殺意を感じるくらいの姉の言葉だった。
「そしたら出て行けって。抗癌剤はもうやめたから、することはこれ以上ないって・・・!」
姉は歯を食いしばった。ただ、その怒りを、その目線を・・・僕にそのまま向けないで欲しかった。
部屋に入り、クリーンベッドで囲まれた患者さん本人へ説明。すると、さきほどの姉が入ってきた。
「先生。それと、この血の跡はなんやねん?」
「う・・・?」確かに、採血の跡が何か所もある。採血の失敗が続いたのか。
「採血したんやろ?ちゃんと血、止めてあげてえな!患者さんが何も言わんと思って!」
「それは・・」
「別にな。先生に言うとるわけやないで?でもな、こっちはアレおかしいなと思うんや。素人でもそう思うわけやで。先生が主治医なんやからそこはしっかりせな!」
「・・・・・」
点滴をセット。ポトポト滴下。時間はそうかからない。
患者さんはじっと点滴を見上げている。僕らもだ。
姉はドアを開けた。僕も出口のほうへ。
「じゃ、あたし朝早いから。妹ももう帰るんで。あたしら仕事もしてるんで」
「ええ。連絡先はここでいいんですね」
「任せてんねやから。よほどの時にしてよ!」
「・・・・・」
「じゃ!」
点滴が終了、妹も立ち上がり無言で去った。
こういう時、何て言葉をかけていいのか。
患者さんはスースー眠りに入った。モニターは変わらず。今のところ血圧は・・急な上昇はない。暗闇に、懐中電灯を持ったナースが現れる。
「あ。びっくりした。先生がいる」
「しっ!・・・俺もそろそろ帰るわ」
「1回、電話入れる」
血糖測定や血圧上昇時の指示を書き込み・・・・。
廊下へ出るとそこには。
「やあ先生!」23歳の若者だ。
「どっか行ってたのかい?」
「ヒック。別にどこも」
「酒飲んでるのか?」
「嫌だな先生。しゃっくりだって今のは!あ。ケータイ鳴ってる」
「おい。ここでケータイは!」
「もしもーし!」
彼は非常階段へ。
別の夜勤ナースがやってきた。
「先生。あの若い人、ひとつも言うこと聞きません」
「事務長に報告だな」
「いっしょの部屋の人が、買い物とか行かせてるみたいですよ」
「何の?」
「酒ですよたぶん」
「没収しないと!」部屋に向かった。
「ダメ先生!5年ほど前、それで大変だったから!」
「なに?」
「主治医の先生が探しに行ったら泥棒呼ばわりされて」
「その先生は?」
「ノイローゼになって・・・」
「辞めたのか・・どある」
部屋も電気が消してある。警察のように踏み込むわけにもいかず・・・悔しいが見送った。
「だる・・・ホントにダルい1日だったよ・・・」
独り言を言ってると、後ろから背中を突かれた。
「いてっ!くそなに!」
「行きましょう!先生!」事務長だ。
「送別会か?やめとく。今日は・・」
「先生が来なけりゃ、始まらないって皆が!」
「まさかお前・・戻ってきたのか?」
事務長は、わざわざ焼鳥屋から戻ってきていた。
「それと先生。今日の1件はすんません」
「何が・・ああ。あれか!そうだてめえ!」
「うわっこわっ!」
「医療対策課に言うぞ!」
怒りが怒りを呼んだ。イラついてたのも関係した。
「・・・・今後気をつけますんで。さ、行きましょう」
待たせたタクシーに事務長は乗り込んだ。
「酒は飲まなくてもいいんで!先生!さ!」
「行く気がしねえよ・・」
「どうか!同乗を!」
「同情・・・するなら・・・」
僕は力なく倒れこんだ。
「カネ、返せ・・・・」
眠り込んだまま、タクシーは出発した。
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