北新地を、事務長と歩く。

「ステーキ屋?師長はヤキトリって言ってたぞ?」
「それは8時でしょう?もう9時ですよ」
「どある・・前哨戦だったとは・・・」

 ステーキハウスのドアをくぐる。
 ヨーロッパ風の内装。黒・赤の本能を擽りそうな雰囲気。

2階のVIPルームらしきとこへ、通される。
すると、いたいた。似つかわしくない奴らが。

「ブヒヒッ!」「ヒヒン!」「カ―ッ!」
カンカンカン!(食器を叩く音)
ドンドンドン!(床の踏み鳴らし)

 僕は、コの字型の真ん中に座らされた。

「いしょっと!というのはもうオジンガーZ?」
「こんばん!は!」右に、すでに出来上がりの師長。昼間とは違う長髪の色っぽさが漂う。

「ここいいですか?よね?」左に事務の田中君。
「医長は?今日も尿路ケッセキか?」
「それがね。珍しい。あそこです」隅っこで水を飲んでいる。
「おい!トシ坊!」

「・・・・・」また陰気に水を飲んでいる。ボーイがつぐ。
「トシ坊!もうちょっとこっち来いよ!」

「あの・・さんは!」
「何?聞こえん!」

「あの患者さんは!落ち着きましたか!」
「職場の話、ここですんなよ!」
しかし周囲で繰り広げられている話の9割以上はそれだった。

 料理長らしき人がおじぎをする。
「では担当の私が」
「あ、よろしくおねがいし・・」と挨拶したのは僕だけだった。

 寡黙な彼は、ホタテ?らしきものをサッサッとスライス。目の前の鉄板に正方形の油がプカプカ・シュワ―と泳ぐ。みなそれに注目。

「あ〜はら減った。みんなは?」
「焼鳥食ったから」心ないオークがつぶやいた。
「バカ!シッ!」

 お手拭きで顔をふき、お茶を飲んだ。
「今日はもう、大変だったよ!」
「満床です。もう入らんよ」師長がネイルを1本ずつ数える。
「俺はちゃんと家族への説明は夜・・おっと」

 知らない間に、また仕事の話になっている。それに横には彼女だ。こういう話では・・。

「ミチルさん。深夜からそのまま日勤勤務、おつ・・・」
「(全員)カンパーイ!」
「どあ・・・」

遠くで、花束贈呈を受ける若手ナース。

「短い付き合いだったなあ・・・」くらいしか浮かばない。
「今の若い子はねー」ミチルはうつむいた。
「結婚て言われたら仕方ないか」
「30過ぎてるけど」
「あっそうか・・師長もそういやさん・・げっ!」

妙な間があった。

左の田中君がアドリブで助ける。
「ユウキ先生!今日の夕方の言葉、あれ感動しましたよ感動!」
「あーそうか?」
「こう言ったんだよ皆!はい注目!」

シェフがホタテを皆の皿へ分けていく。
「では・・・では」
「(一同)おおおおお!」

あっという間に皿が空っぽに。
シェフは身を乗り出した。
「焼き加減は?」
「ミディアム!」「レア!」「ミディアム!」「ブヒ!」

僕は田中君の背中を叩いた。
「さっきのアドリブ、ウェルダンだったな。寒!」
「さてそんでね!ユウキ先生の言葉!」

「もう酔ってるよ・・・」
「へへ〜俺も誰かのヒーローになりてえな〜そいつだけの〜患者さんよりそいつだけの!」

「こらっ!最後は蛇足だぞ!」
「へへ〜冗談ですよん〜冗談〜すぐ怒るから〜」

 分厚い肉の真上、クルクルッとコショウがみぞれのように降りかかる。

 見ていると、鼻がムズムズしてきた。

「ああ、あかんのや、俺・・こういうの見るだけで例えば花粉のニュースでもべいくしょい!」
「きゃああ!」右のミチルが吹き飛んだ。

「す、すまん!」
「ちょっと!」彼女は真っ赤になりあちこちタオルで拭いた。
「俺も拭く拭く・・・あ!」

お互い、手を握ったような形になった。

「(一同)おおお〜」
「ちが!ちが!ふ・・ふへ!」

シェフはステーキを丸ごと遠ざけた。そこでサイコロ分割。

「ふへ・・・不発。ぶしょい!」
「やめてくださ!」左の田中君がよけた。
「あ〜ぶいいいいっ!お!肉来たぞ!」

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