昨日入院となったコワモテの男性が、タバコを手に持ったまま詰所に現れた。

「外泊するからな。がいはく」
「ちょっと待って。今日は検査が入ってるはずだよ」
「けんさ?聞いとらんがな」
「入院の時、自分が説明してます。腹部の超音波・・」
「わし、はいしますって一言も言うてないで?」
「頭の関係以外も調べるって同意で入院してもらったんだから!」

 その男性は、大きく胸を張った。

「患者さんが!そう言うとるんじゃ患者さまが!」
「なに?」
「医者が<ナニ?>やて。呆れるわ。訴えるで。じゃ」
「ちょっと待って!」

 全くの無視で、その患者はエレベーターへ駆け込んだ。

「閉まったか。事務へ連絡だ。おい中野さん!」
「ふげ。申し送りの用意と・・」
「知らんふりすんなよ。くそ・・・」

事務へ電話しつつ、階段を駆け降りる。

「つながったか。もしもし?おーい!」
『はい』女性事務員。
「事務長や田中君は来てないか?」
『まだ出勤しておられません』

「昨日新入院だった患者さんがいるんだが。許可もしてないのに勝手に外泊しようとしてる。止めてほしい!」
『はい・・・あ、いました。あの、すみま・・きゃあ!』
「もしもし!」

 事務室の近く、正面玄関では多くの外来客が診察券を提示する腕、腕、腕。

「すんません!」白衣のまま外へ。

 見失った・・・。

遠くから、外車。リンカーンから事務長が顔を出す。

「先生の仕事場は!そっちそっち!」
「見なかったか?」
「何を?」
「昨日、入院した・・・」
「あ。さっきそこを・・・」

事務長は車を止めなおし、出てきた。

「あ。改めましておはようございます」
「見失った。勝手な外泊だ」
「けしからんですね・・」
「検査をキャンセルだぞいきなり!」
「そうですか・・・」

いつもの事務長らしくなく、無関心だ。

「おい事務長!あの人がかつてどういう人だったかは知らんが。どうやら訳ありのようだな!」
「し、しかし入院となったわけだし」
「病院の立場として、今度説明してくれ!」
「帰ってもいいので?」
「検査や治療に協力的でない人は、入院してる資格はないだろう?」
「私から注意しときます。穏便にやりましょう」
「なな・・!」
「先生も!心を広く!」
「も、ええわ。今日は」

 外来のドアが次々と開いた。朝9時を回ったわけだ。

 しかし。こういう事を許し続けると、そのうち連鎖を生む・・・!

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