ずっとそこにいる、師長の両親。医長が向かい合う。

 その医長は後ろの僕を、妙に気にかけていた。別に彼のズボンが破れているわけではない。

「さ!さ!なんでしたら!」
 医長は沈黙を破り詰所奥へと走って、閉まってたカーテンを開けたが。

「ブヒイン!」

 誰かが着替えしていた。医長はいっそう赤くなった。

「い、1階の控室で・・」
「いやいや。いいんです。先生方は日頃からお忙しいから無理もない」と師長両親。
「本当にすみません・・」
「いやいや。できればあのままミチルと同じ部屋に入ってもろて、いひひ・・・」

「帰って!」ミチルの怒号で、おじさんは黙った。

 僕は彼らをエレベーターまで案内した。入ると、おじさんは名札をマジマジと見る。

「先生方、一体いつ寝よるんですか?」
「寝る時間・・ありますよ何だかんだいって」
「ミチルがね。いつもあんたらのこと感心しとります」
「そうですか・・」
「でもわしらも色々病気があって。いつ病院にお世話になるのか」

「とうさん!」そこまで言うなとおばさん。
「そしたら娘が心配でねぇ。一番ええのはそこのお医者さん捕まえて、一生楽して過ごして子供を2人か3人・・・」

 団塊なりのイメージが出来上がっていた。

「医長さんはありゃアカンかもな」
「えっ?」妙にうれしく気になった。
「フルチンで部屋走り回って、ゴミ箱にションベンしおった」
「ぷっ・・・」

 ちょうどチン、とエレベーターを出る。

「あ、これシーやで。シー」
「ええ、ええ。口は堅いんで」
「処理が大変大変!そこらカーペットはションベンで濡れるし!殺したろかこのガキ!って思た」
「あなた!」ワイフの止めは効果なし。
「妻が寝間着のズボンはかしてもな。何度も脱いでパンツになりよんねん」
「くく・・・」勝ち誇った笑いがこみ上げた。
「そしたら朝、パンツないねん!庭に落ちとった!」
「くっく・・・」
「汚いから、タオルかけてやった上から」
「くく・・・」

やっと駐車場へ。

「そうですか。ではお父さん、お母さん・・」
ついこう言ってしまった。

「(夫婦)?」
「医長がお世話になりました・・・」頭を下げる。
「いやいや。できればどうでっかうちの娘」父親は身を乗り出した。
「えっ?僕?」
「30過ぎたらオバハンやろか?遅いやろか?」
「そんな・・とんでもない!」
「キテはあるやろか?」
「ありますあります!絶対!」
「ここのあの・・事務長さんはアカンで!たらしはアカン!」
「ええ。そうですよね」

 近くでモップの掃除おばさんが小さく頷いている。
ションベン医長の噂が拡がるのは時間の問題だ。

「先生。じゃあちょっと考えといてや!」
「はい!」妙な返事になった。
「わしら楽しみないから孫でも・・・」
「やめんさい!」とうとう妻が怒り、開いた運転席へ押し込んだ。

 夫婦は気まずそうにローレルに乗り込み、ブウンとエンジンをふかした。

 自分の後ろでは、すでに十数人が手を振っている。まるでヒーローの送り出しだ。

 駐車場から上を見上げると・直観は当たった。ミチルが中材の窓から、おそるおそる覗く。

「ひゅうま・・・」

 言ってねえ言ってねえ!

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