ふがいない自分を感じながら、夜の外来に降りる。しかし引きずってはいられない。むしろ、情けなさは追い立てられる仕事の中で、割り切られていく。それも非情なくらいに。

「何人来てる?」
「ブヒ。4人」
「そっか。意外とすくな・・」

と思ったら、田中事務員が抱えた数冊がドサッと下に敷かれた。

「今日の夜診のもう1人は・・・」
「シロー先生は、バイトで」
「だったな。またあそこだろ?」
「敵陣地ですよ。とほほのほ・・」

 シローのやつ。うちの仕事削って、松田のクリニックばかり・・・。

「そんなに金が大事か・・・だよな」
「金ねえ?」田中くんは微笑んだ。
「俺らがやられてしまうよ。ったく・・・」
「うちの事務も、そろそろレセで居残りです」
「わかってるよ。ほら!」

 毎月の差し入れ金を、差し出されたブタ貯金箱へ。札は、ブタ腹の引出しに。

「よし!頑張るぞ!ない病名、掘り起こして!」
「悪かったな!おいナース呼べ早いけど!今日はサービスだ!」
「ブヒ!」

 72歳男性。狭心症で血管拡張後。

「寒いですなあ!」
 社交的な人だ。以前は堅い仕事をしていて退職、その後も会話に博学を感じる。

「発作らしきものは?」
「ない。仕事辞めて、散歩くらいしかしないしね」
「予防の薬は、やはり飲んでおきましょう。じゃ!今日もいつもの・・」
「はは。先生。エッチでも発作は大丈夫かな?」
「えっ?・・ち?」

 幸い、オークナースはボケてて聞いてない。

「発作で救急車呼んだら恥ずかしいしなあ!あはは!」
「運動負荷、ちょっとしてみますか」
「膝が悪いからいいよ。その代り24時間心電図つけて帰る」
「今日?」
「うん。それで8分目あたりでしてみるから、今度その結果見せてちょうだい」
「はっ・・」

 何と反応していいか、分からず。

99歳。老人ホームより。車いすのばあさん。

「高熱が・・」スタッフのナースより。
「脚が真っ赤で・・腫れてる。熱い。蜂窩識炎だ。すみませんが満床で」
「さっき、松田先生のクリニックへ行きまして」

「そうなんですか。あそこは今日、うちのドクターが」
「2診制のようで。シロー先生に診てもらったんですが、毎日点滴通院しろと」
「ホームから?無理でしょう?」
「かなり強引に勧められて」

「まさか?」
「人が変わったみたいに・・・」

 あの男がそんな・・・。何かの勘違いだ。

 オークが書類を片付けている。

「ブヒ。先生あの患者さんが100歳迎えたら、この地方の新聞に先生の名前・・刻まれるで」
「別に。俺のお陰じゃないよ・・」
「あたいはそこまで、生きたくないわ」
「まだ30くらいだろ。あんた・・・」

 タンタンタン・・・と予感さす足音。
 田中くんが滑り込んだ。

「きゅ!救急室から大学の先生が!」
「ヘルプか?まだ医局に誰かいるだろ?整形のじじいとか!」
「帰られました」
「なにい!」

 立ち上がって、救急室へ。

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