詰所の中で、莫大な資料を目の前に奮闘するA医師。廊下のほう、ざわめきが聞こえます。

「こっち!ちょっと先生!」廊下からナースの声。
「・・・・」固まるA医師。
「はやく!」

 A医師、やっと駆け出します。追うカメラ。どうやら歩行中の60代男性患者が胸痛を訴えうずくまったとのこと。

「う〜・・・」苦悶様の男性。手を取るA医師。
「ダイジョウブデスカ?」そんなはずもない患者の手を取り、近くの処置室へ。

「シンデルデンズ!イヤ、シンデンズ!」
 何やらきわどい言葉を放つA医師。あまりの同様に慌てている様子。しかし彼とて人間。

 心電図のデータを必死に見つめるA医師。彼が下した決断は?

「ウエノセンセイ、ヨンデクダサイ」

「ミオコールスプレー、使われますか?」見かねたナース。
「ンー・・・ンー・・・」
「先生!」
「ハイ・・」
「ハイって先生!どっち!」

 知らぬ間に横に立っているB医師。

「ふん・・・ふん」師長より何やら耳打ちの模様。
「・・でして」
「ほおん。心電図はこれか。もう1回とって!」

 男性患者の症状は、どうやらおさまった様子。B医師が近寄る。

「あのなあ!一番痛いの10として、今なんぼや?」
「・・・さあ。2くらいかな」
「じっとしとってよー!」

 記録される心電図。うつむくA先生。B先生が心電図を確認。
「・・・ま、ええやろ」

 A医師を率いて退室するB医師。カンファレンスルームで座ったまま向かい合います。長らくの沈黙。

「なんで、歩かしてんねん・・・」
「ア」
「アやないやろ!」

 カラーン、と灰皿の落ちる音。誰も止めに入る気配はありません。

「胸が痛いっちゅう患者をやな?歩かせてどうすんねん?」
「アルカセテハナク、ソノ・・・」
「なんやと?」
「アルクノヲ、ホジョシタカタチデ」
「頭、大丈夫か?」

 1日目からの指導医の洗礼。A先生にとってそれはあまりにも衝撃で、心に残るものでした。

「あれでお前、患者に何かあったら」
「・・・」
「どうすんねん?」
「ド・・」
「だから!どうすんねん?」
「スミマセン」
「僕に謝ってもしょうがないのよ。このあと、どうすべきや?」
「・・・・・」
「家族への説明や。お前やってみ。オレ、横で聞いてるから」
「ハイ・・・」

 立ち上がってガタン、と椅子を片足で寄せるB先生。

 B先生。カメラ目線でインタビュー。

「今の新人ら見てると・・なんか違うんですよね」
「明らかに?」
「ああ。違う違う。絶対や!」
「どういう点が?」
「僕らんときはね。給料もらうなんて。そりゃ申し訳ないことですよ?修行の身でね」
「・・・・・」
「今は、過保護じゃないっすか。妙に。建前だけが。過労させない、病院を選ばせる、環境を改善する・・お膳立ての保障だけして。ふつう逆でしょうが?頑張るっていうそのハングリー精神とかがさ。鍛えられないと思うんですよね」
「世間が甘えさせてる?」
「でも患者意識は逆に厳しいでしょ。風当たりが。悪いとこばかりみようとして。過保護でわがままな医者増やしたら、そりゃ突っ込みどころ多いでしょ?喜ぶのはあんたらマス・・(プチッ)結局ツケ払うのは僕らですよ?行き着くとこ病院崩壊ですわ。ローテートで医療崩壊やったら、新制度は医療崩壊テロ養成講座みた・・(プチッ)」

 トイレの前のA先生。

「ローテーションサキノビョウインデ、ケッコウダイジニサレテイタンデスケド。イザヒトリノイシトシテ、ホウリコマレタラ・・・ソリャオドロキマスヨネ。ダレデモ」
「指導医の先生も、以前はつらい修行があったようですね」
「デモジブンハ。ツライコト、ドンドンコイ、デス」
「耐えられる?」
「ヒトハ、カナシミガ、オオイホド、ヒトニハヤサシク、デキルノダカラ・・ッテウタニモ、アルジャナイデスカ」
「贈る言葉?」
「フルイデスネ・・」

 また落ち込むA先生。

 カンファレンスルームに入ってくる家族。A先生、何の準備もできないままB先生に引っ張られます。

 彼の<贈る言葉>はいったい・・・。

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