「ああ〜水曜日か!」

 電車通勤で駅を降りて、歩くこと15分。
 やっと病院が見えてきた。巨大な駐車場はまだ空っぽ。おっとその前に、大通りの赤信号を待たねばならない。

「・・・・・」

 昨日は情けないことにバテてしまい、帰ったら速効寝た。しかしそのあと何度かコールがあった。確かまともに答えたと思う。

 最近眠りが浅く、コール→レム睡眠→コール→レム睡眠→・・・と最悪の連鎖が続く。あちこちで医師の過労が叫ばれ始めたが、マスコミ同様それは生もののニュース扱いだ。飽きられたら見向きもされない。

 ピッポー!ピッポー!と青信号。気が遠くなる距離を焦って歩く。

 車のない生活はつらい。もっと大事に扱うべきだった。ろくに点検もせず、ついに動かぬ人に。修理に出したいが、ディーラーと自分の営業時間が全く同じで出す暇もない。

「ひ〜ふ〜!さぶさぶ!」(冬)

 受け持ち患者の状態をあれこれ予測しながら、タヌキの置物の横を通り過ぎる。

 今日は(も?)、<早出>といって、いつもより早めに出勤する役回りだ。臨時で頼まれた。当直のドクターが早めに医大に帰るらしい。朝のカンファレンスに間に合わせるためだという。

「ふ〜!おはよ!」ぶっ飛んだ頭で挨拶。外で喫煙に励む若者。
「あ!来た来た!」先日受け持った若い男性患者だ。若い女性患者と話していたようだ。

「あ!また行くから!」
「おいおい。ちょっと待ってえな先生!」
「先に用が!」
「重症の人、どうなったんかいな?え?」
「は?」
「今日で3日目だろ?ステロイドのパルス療法とかいうの!」

何で知ってるんだ・・・。

「それ、誰から・・・」
「あ、ホンマや。ホンマなんや!ウワサ通りや!」
「やめなよ。そういう・・・」
「んーまーそれはいいとして!で、先生。俺の病名は?」
「あとで行くから!」
「焦らずとも早起きせな先生!」
「(喫煙一同)わっはっはっは!」

 事務長がどんどん入院入れて、ガラが悪くなったな。経営のためなら仕方ないんだけども。

1階のエレベーターがやっと開く。
「あかん!小銭ねえ!(コーヒー買うための)あっ?」

 向こうから、ハァハァと息切れが近づく。

「えっ?だれ?」<開>を押すと間に合い開くドア。
「まてっ!まてい!」

 掃除のオバサンじゃないか・・・。またも茶色いグラサン。ストーカーか?この人は。

 オバサンは大汗で飛び込んだ。勢いあまって大鏡に肩を打った。
「げえ!」
「そんな急がんでも・・・」

エレベーターはゆっくり昇り始めた。

「おばさん。大変だな・・・」
「はっ!はっ!なんでまた今日ははっ!」
「早いかって?頼まれたんだよ。今日は早めに来いって」

と、病棟のバタバタ足音を感じ、即ボタンを押した。
「なんか、だる!いや、ある!」
特有のカンだった。しかし1階分出遅れた。

「しまった。1階下だ。まええか」
「医局行くのとちがうの?え?」

 ドバン!と一気に階段へ出て駆け降りる。ただならぬ雰囲気を感じた場合は駆けつける。自分の経験では3つに1つは予測が当たる。

「たた・・・何かあったんか?」

詰所へ入ったものの、誰もいない。

「どこの部屋?おーい!」廊下に向かって叫ぶが反応なし。
「重症部屋か!」

 詰所近くの重症患者部屋に入る。あちこちカーテンがしてあるので把握は困難。

「あそこか!」

 かすかな揺れでわかった。近づくと・・・カーテンが向こうから開いた。

「ちわっす!」

 ジャニーズ系の院生、ガニーズだ。またこいつが当直か。これで日・月・火の3連直だ。何でそこまでするのか・・・

 彼は大学の院生だが、珍しいことではない。実験が数日ない場合などでもデータ整理のため当直時間を有効に利用、生活費をコツコツ稼いでいく。

 単発バイトの集積が彼らの貴重な収入源である。だが寝当直になるかどうかは誰にも分らない。

 しかし3連直はやりすぎだ。

 だからといって、代わってやる気は毛頭ありませんが。

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