事務長は白衣を脱ぎ、スーツ姿に戻った。ネクタイを締め直す。

「そこのソファーへ」
「ああ。お菓子はこれ・・全部中身がないぞ?」

 どうでもいいことを呟きつつ、ソファに沈んだ。

「事務長。品川。実はもうだいたい分かってんだよ。毎日あの患者は採血されて、その入った検体が・・つまりお前が今も大事そうに持ってるやつ」

「だ、大学も研究とかあるんで」
「それを、なんで主治医の俺の断りもなしにしたんだよ?」
「は・・では今」ペコリとおじぎ。
「おいおい。今更やっても遅いって」
「では・・どのように?」

 僕は手を額に当てた。

「なんだ?どうしたんだお前?なんか以前と違うぞ・・・もっとオープンだっただろ?」
「ええ。しかし今回のは軽率でした」

「俺はね。ここの大学の奴らが嫌いなんだ。関連病院になって植民地扱いになるのは仕方ないが、長期になった患者を送るだけ送って、データだけは取ろうっていうコンタンが」

「先生。使い走りの彼らも彼らなりに大変みたいですよ」
「新薬剤の副作用で苦しんだ患者だぞ?予測不可能だったとはいえ・・・その後に敬意が見られんだろ?」

「ですから先生。派遣されるのは末端のスタッフであって。それを言うならもっと上層部の」
「それを何だお前は。加担しやがって。俺に内緒どころか、患者・家族にも内緒だろ?」

「・・・・・」
「俺が当人だったらな。訴えるよマジで」

女事務員が入ってきた。

「先生。患者さんたちがもう」
「出てろ!」
「ひっ!」反射的に引っ込んだ。

 僕は仕方なく、出る準備をした。

「どうした?何も言えないのか?事務長」
「先生。自分だって好きで了解したことではないんです。ただ先生には周囲がかなり気を遣いまして」

「そりゃ許すかよ」

「当院は大学と連携が持てて、やっと黒字に転化できそうなんです」
「?赤字だったのか?」

「ですから。どうか・・・」彼はうつむいたままだった。

「要はコソコソすんなってことだよ。でも俺、ガニーズらには一言言ってやるからな!」

 ズドンと飛び出す直前、後ろからつままれた。

「いた!なんだよ!」
「大学への悪印象は困ります。そうなりそうな場合は・・・」
「実力行使か?あそこの講師は実力ないぜ」

「すみませんが。先生はかなり苦労されることになるかも」
ビクッとするような声だった。

「脅しか?お前・・・何かあるのか?」

 自分は眼前の広い外来空間を見渡した。

「苦労はな。もう充分してるってよ!」

 最大出力で飛び出した。

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