救急室に行くと、ベッドが3つ並んでいた。救急担当のピートが、床にうずくまりゼーゼーうつむいている。

「どうした?処置は・・・」
「ゼー!ゼー!」彼は、震える手で指さす。

「あ?うん。1人は呼吸器がついたのか・・・モニター、脈速いが幅は広くないな。病棟に上げるか!病名は?」
「ゼー!・・ゼー!3人とも身寄りがない。呼吸器の50代男性は、脳卒中か何かの後遺症っぽい」

「再発か?」

 頭部CTでは新たな出血はないが・・・

「延髄の上部、ポンス(橋)が怪しい。黒い点・・・古いのか今回のものか。体動で分かりにくいな」
「し、シー!カン!コンコン!」
「ピート。お前。風邪ひいてんのか?」

 残りの2人は重症の腸炎、うち1人はイレウス状態。

「腹膜炎の所見はないな。入院だ。みんな。とりあえず」

 近くでナースが3人固まっている。

「おい。ボケッとすんな!」

 勢いよすぎたのか、みなビクッと飛び上がった。

 「動くんだよ!」

 患者の正面に横揺れしたペンライトが消えた。

「眼球偏位は何ともいえない。教科書みたいに所見は揃わんな」
「フー。俺1人でやったようなもんだぜ」
「ここのナースらは。使えんか?」聞こえないのをよそにつぶやいた。
「質の悪いスタッフを仕入れられたら、救急掲げるのはリスクだぜ!」

ピートはようやく姿勢を取り戻し、患者を1人ずつ手配した。

「そっか。1人でこれだけ。アイツよくやったな・・・人工呼吸器のセッティング、中心静脈ルート3つに・・・ま。相応か」

開きっぱなしのドアの外を眺めた。

「救急隊はもう帰ったのか?」
「はい」若いナースが1人立っていた。
「ガラの悪い救急隊か?」
「色が浅黒くて、ヤクザみたいな人でした」
「すると、以前ここへ団体搬送してきた奴らか・・・」

 他院からの転院ということらしいが、紹介状がない。以前のケースと同じだ。

 外来のオークナースが、患者を入れてきた。

「どうもすんまへーん。薬だけでええっちゅうに」じいさんが入る。
「えっ?ナース。ここは場所が違うだろ?」

オークナースはピースした。

「ブヒ!アンタが来ないなら、こっちから行くまででヒ!」
「どある・・・」

 救急室の隅っこで診察。近くで検査のひょろひょろナースが、教育ママのように待つ。

「ま、変わりないね!次!」
「いやいや。それがあるんでな」とじいさん。
「うっ・・・」
「朝のNHK見たらな。動脈瘤が頭にある人は、いつ裂けるか分からんって。怖いでんなあ先生」
「ええ」
「検診ではそんなの全然調べんでしょが。わしにもあったら、どないしょ」
「ええ」
「ちょっと聞いとんのですか先生?」
「ええ」

 実は意識が別に向かっていた。緊急入院患者のことが気にかかていた。病棟の患者のことも頭をよぎる。

 医者の頭の中は、24時間いつも何かが<よぎって>いる。

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