「おい!」

後ろから、いきなり両肩を押し込まれた。

「たたっ!だけどちょっと気持ちええ?」振り向くと・・・先日入院した若者だ。

「先生!ちっとも俺を見にきてくれんがな!」
「てて・・・なんでここに?」

近くで別の若いナースが立っていた。彼女が招いたようだ。

「患者さんが、どうしてもお会いになりたいと」
「診察中に入れるな!」
「はあ」

「先生先生!」若者はのぞきこんだ。ヤニの匂いがする。

「病室へは行くって。あとで行くから!」
「病棟の患者さんらは、みなカンカンや。医長先生らは、早朝だったら6時くらいにでも来るって」

「そ!それはな!当直明けについでに(眠れず)回診してるだけだ!」とは言えなかった。

別の患者の診察中でも、若者はあちこち触りまくった。
「へ〜。このボタン、足で押すんかいな〜」

 靴底でポン、と押すと丸い大きな床が、ウイ―ンと90度回った。彼は真中でクルッと一瞬踊った。

「お!すげえすげえ!パチパチパチ!」

 正直、目障りだった。

「触ったらあかん!ベッドを回転させるものだ!それは!」
「ええっ?ベッドが回転?先生。やらしぃなあ〜」
「おい!なんとかしろ!」近くの内視鏡ナースを呼んだ。しかし・・・

「わたくしは内視鏡が管轄でして、救急室の担当ではありません」
「ちっ!」

「救急室担当のほうに、先生が直接ご相談お願いいたします」
「ちちっ!エレベーターガールみたいに!」

「先生。内視鏡が3名。追加が2名入りました超音波もついでにとのことです」
「うそ?どこからのオーダー?」

「他院からですので。拒否はできません」
「今日は勘弁しろよ。で、受ける人らは?」
「そこにおられます」
「げっ!」

ちょうど目の前に座っている。

「あ〜あ。待たされて明日になるかと思った」ばあさんが不機嫌だ。
「朝は食べてないよね?」
「そりゃそうや!だから腹減ったっちゅうんじゃ!カメラ食うたるぞ!」
「ひ!」

患者は内視鏡室へ移動。ドルミカムで鎮静。ウトウトしだす。
「そうだな。それでいんだ・・・」

何度か行き来し、内視鏡。

「紹介状によると、胸やけ・・・おっと。大きなヘルニアだな。食道・・」

「私語は謹んでお願いいたします」ナースは相変わらず冷ややかだった。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」

 時間が淡々と過ぎていく。カーテンから外来オークナースがのぞく。

「あとどのくらい?」
「・・・・・」
「なあ。あとどのくらい?時間。おーい!」

内視鏡ナースが<シー>と合図。

「今度は、ここ連れてきたから。6人おるから。10分したらまたまとめて来るんで。そのあと検診12名。あと新患。それといろいろエトセトラ」

「・・・・・」無言でカメラを引き抜き、所見。

「医長先生はIVHが入らん入らんって難儀してるし。ザッキー先生はよそに出ておらへんし。シロー先生は無断欠勤でけえへんし!」

 自分はピクッと反応した。

「おい。俺の仲間のこと(そんなふうに)言うな・・・」
「とにかくはよ!診てあげてなー。患者さまらが待ってまっせー!」
「ちっ!」

 事務長。早くここの医者を増やしてくれ・・・!何かのクローンでもええから・・・!

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