診察。診察。診察。内視鏡。診察。診察。トイレ。(手を洗ったのち)診察。時間が過ぎていく。

 内視鏡や超音波は暗室でするので、時間の経過も外の天気も分からない。しかし、日の光をあびるときが来た。

「ちょっと病棟、行って来る!」パルス療法中の患者を診察するためだ。

 一瞬だが、光を浴びた。

「きれい・・・」トリニティの言葉を思い出す。

 再び暗い病棟へ。

 妙な予感は的中しなかった。患者は久方ぶりに笑顔で座っている。酸素マスクも鼻カニューラでいけてる。

「音も良くなってる。少しだが」
「は・・・は・・・・」
「いやいや。今は喋らなくても!」

 このとき、ばあさんが礼を言おうとしていると思ったのだが・・・。彼女の言いたいことは違っていた。

ミチル師長が執拗というほど、ずっとそばについている。

「パルスが予想外に効いた。俺は今。ものすごく感動している」
「・・・・・」彼女の表情は硬かった。
「今日で3日目投与。感染症の予防は大事よな!」
「・・・・・」
「あ。朝の件か。俺もちょっと熱かった。大学も採血検体が欲しいなら、前もって言えばいいのに」

つい、許すようなことを軽く口走ってしまった。

「家族にも、知らせなきゃな」
「・・・・・・」師長はどこか一点を見ていた。

みな、心があちこちにワープしてるのか。医療スタッフにはあるまじき行為だろうがな。

医長は詰所で腕組みしている。
「先輩」
「おう。医長」
「パルス療法の人は、だいぶいいですね」
「ちっ!俺が先に言おうとしたのに!」
「でも油断は禁物ですよ」
「わかってら!で。お前は点滴入ったのか?」
「・・・・・」

どうやら、今日は撤退のようだ。

「そっか。俺がしようか?午後から」
「患者さんに負担ですので」
「え?今いける?」

向こうのナースの合図でわかった。

病室に入ると、患者の右鎖骨下あたりは・・・血が散乱。
「トシ坊。気胸はないだろな?」
「肺に刺してはいません」
「こんだけ刺して。何でわかるんだよ」

聴診は問題なさげだ。
「おい。ろくぶて(手袋)!」
ナースがさっと手渡す。

「すみませーん。ここからしまーす。チクッと・・・はい今ので終わりー」

医長がのぞきこむ。
「医長。近すぎだよ」
「・・・・・」

「検査のほう、行ってくれんか?」
「検査?」
「終わりかけのがちょっとあるんだ」
「先輩がIVHと格闘する間、自分は検査だけでいいので?」
「かくとう?ちっ・・ああ。いいんだよ。後輩」
「じゃ、すぐ終わらせて戻ってきます」

 医長は消えた。たぶん、しばらく戻ってこないだろう。

「お。戻った。血液が」
いとも簡単に、挿入は完了した。
「点滴よこせ!おい!ボケっとすんな!」

こうやって怒鳴ることが多くなった。

コメント

最新の日記 一覧

<<  2025年5月  >>
27282930123
45678910
11121314151617
18192021222324
25262728293031

お気に入り日記の更新

最新のコメント

この日記について

日記内を検索