H5N1 の勉強

2009年1月7日 読書
 医局ならどこにでも置いてある、日本医師会雑誌(右の本ではない)。マイペースで当たり外れのある雑誌だが、H5N1、新型インフルエンザとなると話は別だ。

 以下、1月号より。

H5N1は、正確には・・・

H5N1亜型高病原性鳥インフルエンザウイルス=(H5N1亜型の)highly pathogenic avian influenza virus=(H5N1亜型の)HPAIV



・ はじまりは1996年の中国、97年香港でヒトにおける発生。死亡も。徹底した対策するも2001-2002年に再燃、以後韓国・日本・東南アジアへ。日本では2004年に山口・大分・京都、2007年に宮崎・岡山(以上は家禽=かきん)、2008年の秋田・青山・北海道は白鳥より検出。



・ 日本は2005年より多発地域の東南アジアで調査を開始。タイでは(ヒト発生の場合)25人中17人が死亡。ほとんど死鳥→接触だが人→人感染疑い例も。ただ感染経路としては経口(加熱不十分など)も推定されている。ところが発生が最多のインドネシアの25-50%が鳥との接触がないのもおかしな話。

 

・ これら各地への流行に伴い突然変異が生じたため、抗原性・生物学的性状により10ものグレードに分類されることになった。それはさらにサブグレードに分類。



・ ヒトへの感染は2003年以降380人以上が確認されている(氷山の一角)。不顕性感染が見当たらないつまり一旦感染したらほぼ全員が発症するといわれる。ヒト→ヒト感染が連続すれば、それはすなわちパンデミック=世界的流行を示唆するものとなる。



・ H5N1患者の90%以上が小児・若年成人で、致死率は高く平均63%(小児~30代が特に)。高齢者は発症・死亡例も少ない。これには若いなりの免疫応答の過剰さが裏目に出た結果と思われている。



・ 潜伏期は2-4日(10日以上という報告も)。初発症状は発熱で通常のインフルエンザととられてもおかしくなく、本症らしい所見が出るのは約1週間後のウイルス性肺炎のとき。これはARDSの状態へと向かう。未治療だと全例がMOFとなり死亡している。



・ ここでウイルス性肺炎と表現しているが、二次的な細菌性肺炎と考えがちだが実際その病態はむしろ(ARDSに対する)ステロイド長期治療後のほうでみられる。



・ 通常のインフルエンザではウイルスは上気道でとどまるが、H5N1はさらにその奥の奥、肺胞領域(主にⅡ型肺胞上皮細胞)から血中から各臓器へととどまるところを知らない。



・ 前述の過剰な免疫応答はサイトカインストームと呼ばれる。しかも血清サイトカイン濃度はウイルス増殖量に比例する。この過剰な応答が発熱・筋肉痛・関節痛などインフルエンザ特有の症状も出し、その過剰さゆえの多臓器不全をももたらす。



・ ARDSに対してステロイドの使用は、このH5N1によるものの場合かえってウイルス増殖を促すという指摘がある。使用するとすれば低用量であり、パルス療法は推奨されていない。



・ つまり原因ウイルスは同じでも、H5N1によるインフルエンザの病状は通常のインフルエンザとは全く異なるものである。



・ トリ型ウイルスがヒト型に変化しつつあることが、新型誕生の恐れを生んでいる理由である。この変化つまり遺伝子変異に関して、①レセプター結合特異性(結合するよう変化)、②RNAポリメラーゼの至適温度(ヒトの体温でも増殖)の関与が分かっている。これらに加えてさらに、ヒトの上気道でも増殖が容易になると、パンデミックが起こる可能性が高い。



・ 新型に変異した場合、その病原性はそのまま受け継がれる可能性が高い。



・ 新型が病原性かなり強いと早期に重症化するのでパンデミックはむしろ少なく予測されるが、むしろ病初期あるいは伝播がゆるやかなケースなども考慮すると、致死率15-20%程度に低下した場合に感染拡大の危険が高いことになる、という推測もある。



・ 日本によるベトナムの調査では106名中52名が死亡。入院29例の検討では発熱(83%)>悪寒(48%)>頭痛(35%)>筋肉痛(21%)>下痢・吐き気(7%)。



・ こういった東南アジアでは早期発見に当然力が入っており、家禽(病・死)に接触歴あり+インフルエンザ症状があった時点で病院受診、(次項の)キットによる診断・治療を開始している。



・ ウイルス検出法として、ネブライザー使用(下気道からの痰を採取)による迅速キットが実用化に向けて検討中。



・ WHOによると、薬物はオセルタミビル(タミフル)が第一選択。使用は通常量だが倍量の治験が進行中。必要により市中肺炎向けの抗生剤、酸素(ARDSへのIPPVも)、低用量ステロイド、NSAID(抗炎症薬)など。



・ ノイラミニダーゼ阻害薬(タミフル・リレンザ)の日本での備蓄量は人口あたりで19%と世界で28位(トップはフランスの54%)と全然足りてない状態。耐性株の出現など課題も多い。国家備蓄の増加が急務。



・ 新型インフルエンザとなると薬剤の1日量・投与期間が増加が検討されるはず、となっておりあくまで予測の範囲。


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