1年目のとき(大学病院)。
大学時代の頃の仲間がみな散らばって→夏→秋→冬ともなると、どこか慣れてどこか寂しくな・・るのか、もと同級生から探りの電話がかかってくることが多かった。ただし携帯電話がなかったので、(多忙でもあり)自宅の電話で出るということ自体が珍しかった。
「もしもし?」
「オッス!」この彼は、救急病院へいきなり自ら配属した人間だ。
「おうおう!」寝ていたが、飛び起きた。
「そっちは忙しい?」
「あ~そりゃもう・・・」
「カテーテルとか、バンバンやってる?」
「まだまだ。何もさせてもらってない」
「オレさ。胃カメラとかもうバリバリだぜ?」
「ほ~・・・」
受験の頃のプレッシャーのようなものを、かけてくる友人。
「うまく、いくもの?」
「それがさ。オレの胃カメラ上手らしいんだよね。指導医がさ、もうお前1人でやれるなって」
「・・・・救急の方は?」
「ああもう。何でも来る来る。もうさ、一般病院とかの症例なんか退屈でチンケでさ。オレって救急に向いてんだよな」
「ほ~・・・」
「ほ~って?」
彼は、何か言いたいことがあって、電話をかけてきたはずだ。そう直感。
「そっか。じゃあ、遊ぶ暇ないな。お互い」
「ナースにはモテモテでさ。ちょっと火遊びしたりしてさ。へへ。おいおい。誰にも言うなよ!」
「ほ~・・・」
「なんかユウキはさ。あまり面白くないんじゃねえの?そんなノリだと」
「いやいや。ちょっと疲れてて」
「何言ってんだよ。俺なんか1週間寝なくても平気だよ。おかげで症例もたまったし、論文も書いてるしさ」
「あ、論文ね。俺も・・・」
全く興味はなかった。妙なプライドだけが働いた。
「ところでさ」
きた・・・。
「あのさ。うちの救急病院、けっこう何人かまとめて退職するんだ」
「それって。問題でもあったのか?」
「い、いやいや。栄転だよ栄転!そこでな。うちの院長が、人探してんだ。優遇してくれるって!」
「う~ん・・・」
「考えといてよ!今度また電話するからバイビー!」
「あっちょっ!」
(切)
次の日だったか、僕は同僚の女医に打ち明けた(古い言葉でいえば、意中の)。同僚4人が黙々と夏のカンファレンスルームで物書き中。
「・・・ということがあった」
「ふーん。そうですか」
「親の仕送り、いつまでも受けたくないしなあ・・・」
「でもその先生。寂しいのかもしれないよ」
「?そうか?」
「忙しくても仲間がいれば、夜中に電話なんかしないでしょう」
「そっか」
「たぶん、寂しくなったんでしょうね。けっこうベラベラ喋ってたでしょう?」
「そういやそうだな・・・」
女のカンは、本当に鋭い。
「あたしは無理には止めないけど」女医はふたたび紙面に目をやった。
「いや。やっぱやめよう」
「ちょっと、寂しいかなー・・えへへ」
「・・・・・」
1時間後、僕は真っ暗な窓を開けた。小さな夜景だけ広がる。
「あたしちょっと、さびいかな~か。ふっふ・・・!ふ!」
カンファ室から、電話で0発信。
「オッス!もう心変わりしたか?院長がぜひユウキに会いたいって!」
「断る!」
「おいおい?」
「すまん!許せ!」
「うちの院長がさ。日本一の救急医にしてくれるんだよ?もったいないよこんな話!2人で病院造ろうよ!な!な!」
「もう決めたんだ!教授とも相談した(←もちろん嘘)!そしたら行くなって!」
「バカヤロ!なんでそんなこと、すんだよ!もういいよ!」
(切)
「ふ~。なんか少し傷ついたが・・・あたしちょっと、うれしいな~!か!」
ドテッ(寝込む)。
次の日。
研修医、待機中のカンファ室にいきなり医局長が。
「おい!夜中に長距離電話した奴!」
「はい!」反射的に挙手。
「事務側からの指摘だ!この前、留学生が国際電話を使って注意があったはずだ!」
「実は!関東の病院からの勧誘でありまして!」
「なにっ!お前、転属を考えていたのか!」
「違います!自分はここの医局が一番で!一生ここで身を捧げるものと考え!速攻でその話を断りました!(←言うてない言うてない)」
「うっ。そうか・・・」
その医者はひるんだ。
「ま、がんばれよ・・・」
ドアが閉まった。
何かよく分からないが、久しぶりに味わう達成感だった。おそらく多忙の中、それこそ必要とされる仕事でもあったにかかわらず・・・実はそれを実感もできなかった毎日だった。女医に必要とされたわけではないだろうが、でもちょっとでもその可能性を見出すことで、次なる飛躍に向かうことができた。と強引に解釈した。
コメント
ご参考までに
ごめんなさい。