家庭教師

2009年3月2日 連載

 医学部5年目まで、家庭教師をしていた。高校男子3年の家で、週2回で、各2時間。しかしまっすぐ帰れることはなかった。母親がいろいろ仕掛けてくる。

「先生。夕食をごいっしょに」「すみません・・・」
「先生。お風呂。着替えは主人のステテコ」「すみません・・・」
「先生。今日はもう遅いから。泊っていって」「すみません・・・」

 ベッド。枕が2つある。

「これは・・・」
「じゃ。先生おやすみ」学生はふとんにもぐった。
「しゃあないな~。じゃ」

電話を消した。

間もなく、彼が話かけてきた。

「なあ先生。うちの母親。すごく機嫌悪いねん」
「なんで?」
「いやね。そこの机の引出しのエロ本が見つかって」
「勝手に開けられたのか?」
「というか、開けたらもうなかった」
「・・・・・」
「先生。AV見ても当たり前な年ごろなのに(そうか?)、エロ本もいかんってどういうこと?だから俺、もう地元の大学には行きたくない」
「ん~。隠し場所な~・・・」
「先生。エロ本読むのはな。正常な行為だろ?女は理解できへんみたいやねん」
「されても嫌だがな~」
「ああ!早く僕も下宿して!堂々とエロ本読んでたい!」

そうくるか・・・。

彼はまだ寝なかった。

「あ。そうだ!ちょっと電気つけるよ先生!」
まぶしく明かりがついた。

「よし。よし・・・!」
本棚の最上段。薄いファイルが無数にある。

「エロ本を薄く分冊にして、これらのファイルの間で紛らわせたらいいんだ!」
「そごいな。その発想!」
「人間って、追い詰められたらなんでもできますよね!先生!」

彼の目は輝いていた。

約1週間後。とある駅。

「先生。こんにちは」
「ま、来年があるよ。今は予備校の方が楽しいっていうし(当時はバブル崩壊直後)」
「うん・・・も、地元の簡単なとこでいいわ。先生」
「いいのか?おい、それで。隠したものは大丈夫だったか?」
「あ。あれ・・・」

彼のテンションが急に下がった。

「なくなっとった・・・」

僕は声もかけれず、彼の背中を見送った。

しかし、今でも彼の言葉は生きている。

(医者7年目。カテーテル指導中)

後輩「入らない、入らない・・・先生。もう変わってください。しんどいです」
僕「落ち着いてゆっくり回せ。指先に集中」
後輩「よし!あっ、入った!やれました!」
僕「やれやれ・・・」

(着替え中)

後輩「いや~もう諦めようかと思いましたが。火事場の馬鹿力というか!」
僕「人間ってな。追い詰められたらなんでもできるもんだよ」
後輩「それ!先生の言葉じゃないですよね!」
僕「もっとも・・・!」







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