謎の送別会

2009年3月2日 連載
 とはいっても、大学の高齢OB。開業医祝いだという。僕は普通に参加した。薄給(当時1年目で、当時は手取り月8万)で、食事にも困っていた。

 出席すると、見たこともない大勢のOBたち。体育会系のノリで、彼らだけの会話で会が進行していく。僕ら研修医のテーブルは静かなものだった。

「なんか、ここだけお通夜みたいだなー・・・」

 あちこちで円陣が組まれ、軍歌みたいなのが始まった。こちらは胃袋も満たし、帰るのを待つだけ。

 司会者がステージへ。

「はいはいはい!ではですね!ここで大先生の開業の門出を祝いつつ!1本締め!いーよっ!」

(パン!)

「どーもありがとうございましたー!では1人ずつ壇上へ!挨拶して激励の言葉を!」

 うちのテーブルはみな困った。

「激励の言葉?ノナキーお前考えたか?」隣の同僚に聞く。
「僕は考えてきたよ。君には教えないけど」
「<さようなら>ちがうな。<憧れてました>これもちゃうな。<いつか先生のように>寒。<僕も頑張ります>ん~?」

 焦っているうち、自分の順番がきた。

 頭がテカってる高齢医師。高級官僚のよう。こちらに向かって愛想笑い。みなまだ観客席で注目。

 僕は、とっさに声をかけた。

「先生!頑張ってください!」

 一瞬、会場が凍りついた。なぜ?というくらいに。

 OBは、気まずそうに近づいた。

「お、おお・・・お前も頑張れよ~!」

 なんか、泣きそうな表情だった。

(帰り)

「あっはっはっは!」上級医が笑っている。
「どうしたんですか?」
「いんや~ユウキ!お前、大したもん!」
「そうですか?ちょっとまずかったですか?」
「そりゃそうだろ!ガハハ!お前、新聞とってんのか?だったら1年前の記事見てみな!」

 新聞はとってなかったので。図書館で。

「あった!載ってる!」

 そのOBの顔が1センチ平方で載ってた。

<○○医師、大病院にて医療メーカーと共謀 詐欺の疑い>

 これで送別会するなんて。医者の世界の懐は深すぎる・・・!

 さらに横の行。

<反省している>

 そうなのか?そうであることとする。以下余白。




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