どこのカンファレンスにも、<鬼>がいる。

 研修医が症例発表。

「患者さんは、狭心症の疑いで」
「どうして狭心症と疑ったの?」
「胸痛が1週間前からあって・・」
「それで狭心症と疑った?」
「はい」
「胸痛をきたす疾患は山ほどありますが」

沈黙。鬼は凝視したまま。

「黙ってても、何も起こりませんけど」
「はい」
「床見てますけど。なにかありますか?」
「いえ」
「答、さっきから待ってるんだけど」
「はい」

あちこちで、冷笑。鬼は凝視したまま。

「さっきから<はい>と<いいえ>しかないんですけど」
「はい」
「ほうら!」

あちこちで高笑い。鬼は凝視したまま。

「胸痛をきたす疾患を聞いてるんですけど」
「狭心症、心筋梗塞、胸膜炎」
「テキスト見ずにお願いします」
「あ、はい。気胸・・・」

緊張しすぎ、何も言えなくなる。鬼は凝視したまま。

「ふーん。では先生は、それしか胸痛をきたすものがないと?」
「いえ」
「じゃあ何があるんですか?」
「・・・」
「もう時間がないや。これじゃ夕方の講演会も間に合わない。それはいいですから、もう。で、どの検査でどういう所見があって、そのどこが根拠でどういう基準を満たしたから先生は狭心症を疑ったわけですか?」

沈黙。鬼は凝視したまま。

「僕の言ってることが分かりませんか?」
「わかります。心電図で虚血性の変化がみられて・・」
「これね。この軽度の所見では狭心症だけじゃないでしょう何も。これで狭心症だったら、僕の診てる患者さんのほとんどが狭心症ですよ?」
「・・・・・」
「他に何の検査をしたんですか?」
「よその病院の検査でして」
「じゃあ先生は、そのよその先生のストーリーを自分に置き換えて話されているわけですね?」

沈黙。鬼は凝視したまま。

「先生。よその先生が狭心症疑って、そのまま同じ疑いでいいんですか?そう思いませんか?あ、いまカンファ中ですから」

 入ろうとした他科の先生、締め出される。

「じゃあ言いましょうか?その<よその先生>は実は僕です。たまたま友人の持ってたニトロペンを使用したら効いたという話を親戚の方から聞いたんです!紹介状に書いてないでしょう?あえて書きませんでした」

 近くで聞く僕、コナン風にあきれる。
「オイオイ・・・」

 鬼が去った後の研修医の安堵の表情が、これまたいい(コカコーラのCMのよう)。




コメント

ブログ脳外科医
2009年3月6日3:05

締め出された他科の先生がこの話を聞いたら何て言うのか聞いてみたいですね.
『素人さんをいじめちゃいけませんね.』とか,『くだらないオチにつき合わすな.』とか,『忙しいのに時間を無駄にするな』とか....

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