無限に広がる、雑木林。
僻地の中型病院。前方の駐車場に、住民が多数見送りに出ている。真田病院スタッフは関連病院を1つ造り上げ、再び本院に戻るべく出発の準備をしていた。
6両トレーラーのコンテナに、間横のハッチから患者を1人ずつ搬入していく作業。
「オーライ、オーライ!」
事務員や役所の人間らが指示。
ユウら医師らは、汚れきった白衣のまま地べたで寝ている。そこへ、歩いてくる女医。これもまた疲れ切っている。彼女に、若さはもうない。
「先生・・・先生」
「あ?ああ。ジェニーか・・・」
「先生。どうしよう。あたしたち、どうしよう」
「どうしよう、って・・そんなの」
ジェニーという女医の向こう、返事を待つかのように数十人の医師らが群れをなしている。彼らは覇権争いに敗北し、行き場を失った。
「そんなの。自分らが決めろよ。お前らの手にもしこの病院が渡ってたら・・・そっちのほうが<どうしよう>だよ」
「・・・・・・(小声)あたしだけでも、だめかな」
「くどい!」
思わぬ暴言に内心傷つきながらも、今は怒りの方が強かった。
ジェニーは表情が鬼のようになり、唾を飛ばすがごとく狂いまくった。
「バカヤローバカヤロー!こんな病院!潰れちまえどうせ続けへんわ!泣きごとぬかしても知らへんでー!」
「(本性が出たか・・・)」
だが彼女は信号が処理しきれず、爆発的に泣き崩れた。
ユウは起き上がり、ボーッと突っ立ってる真吾医師に歩み寄った。片足をひきずり、親友へとやっと辿り着く。
「真吾。おい真吾」
「・・・・・・」
「行くぞ!重症患者は、大阪に到着後に振り分けよう」
「・・・・・・」
「今日の晩は、すべて当直医に任せよう」
皆の乗り込んだトレーラーの車輪が、ゆっくり回り始めた。
「(住民ら)ありがとーぅ!」
みな、一斉に旗を振る。50人ほどの医療スタッフと、百名余りの住民ら。
ユウらは最後尾車両の後窓から手を振った。
「ちょっと、最後が嫌だったな・・・」
ユウは足元を見た。シナジーが横に立つ。
「彼ら、沖縄で頑張るそうですよ」
「なんだよ。もう決まってたのか?」
「あっせんの業者からコンタクトがあったようで」
「情報が早いな・・・」
「病院をそのまま貸す契約だとか」
「太っ腹な業者もいるもんだな・・・」
すると、三角座りしていた真吾が立ち上がった。
「おれ・・・おれやっぱ!」
「あ?」
「ここに残るわ!」
真吾は運転手への無線を取った。
「降りる!」
だが、予測していたことだった。
最後部のハッチが開き、彼は走りだした。病院は遠くだが、瞬時に辿り着く勢いだった。
事務長のシナジーは、あえて驚かなかった。
「・・・・・やっぱ、そうきましたか」
ユウも、同様だった。
「あいつは、初めて自分で居場所を選んだんだ・・・」
「院長に収まることになりそうですね」
「俺の居場所は、どこなんだろう・・・」
「ちょっと辞めんといてくださいよ先生!さっそく1人失ったんですから・・・」
真吾は、どんどん加速していき、解散寸前の人ごみの中に入っていった。
奈良の僻地の、120床の老人病院。かつてこの病院を擁したグループは、とある病院グループと覇権を争い・・・住民投票でその地位を勝ち取った。以後、村は活気で溢れ人口は増加、平和が続いていくかのように思えた。
やがてその経営権は自治体へと移り、1年が経とうとしていた・・・。
< EMER-Z-ENCY FALLS >
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