パワーウインドウが閉まると同時、黒い車やブラック救急車から若手が続々と飛び出してきた。誰もが無口で、私利私欲を引っこ抜かれたような表情。
彼らはためらいもなく、正面玄関へと入っていく。
「うわあ!何をするんですか!こらっ!」
事務員らの机の引出しが、次々と開けられていく。整理していた台が、次々になぎ倒される。邪魔した事務員は、いとも簡単に足蹴りを喰らう。
車から最後に出てきた、ショートカットのスリムな女性がゆっくり建物を見上げる。宝塚系の、彫りの深い顔だ。夏でも、黒いレザーを着ている。
「・・・・・・」
藤堂は振り向いた。
「娘よ。お前は、最後の後始末をここでやれ」
「・・・・・・」
「邪魔する奴らは、たたっ切れ!だが。前の職場のときみたいに、本当に殺すなよ。もう後がないんだからな!足津さんに感謝しろ!」
「・・・・・・」
娘は小刻みだが、頷いた。
一方、若造らは詰所へも乱入した。
「詰所、確保しました!」
割と、丁寧な言葉遣い。それだけ手慣れていた。
「現在あー、満床状態!呼吸器が12名!新規の、救急車要請許可を!」
<許可します>
足津の声。間違いなく、彼が全ての司令塔だ。
別の部署から。後ろで震えて泣きだす白衣女性。
「薬局を把握!軽トラックのタイプCを3台!要請願いまーす!」
ある若造は、詰所の冷蔵庫の中をすべてかきだす。その際にテーブルからケーキが落ち、悪気もなく踏みつける。
「冷蔵庫1台。テーブル1台!いずれもチャイナ製!」
「キャァ!なにすん・・・」足首にしがみついたナースを、ものともせず。
「20インチテレビ!パソコンマックG4!ABCDEFGのジー!以上!」
「キイイイ!」ナースが靴下の上から噛んでいる。さすがに血がにじむ。
「ハードディスク情報、複製しまーす。読み込み・・完了!」
ディスクが床で、イスの下敷きとなり割られていく。
同時に、ナースの頭が蹴られキャップが床にバウンドする。
その瞬間あるナースが棒を持って暴れたが、白目を呈し気を失った。その際バン、という音がしたような。
若造は<どうも>とピースの感謝合図。合図を受け取った人間は、さきほどのショートカット。
ナースは貧血で倒れたのか。いや・・・ちがう。
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