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2009年6月9日 連載
 周囲が慌ただしいのをよそに、女は両手を拡げ深呼吸した。

「おいおい!早速手を出すなと言ったろうが!」藤堂のおやじが後ろに。
「オヤジ・・・・・私はここに何泊?」
「そっ、それは・・・足津さんがいいというまでだ!」
「・・・・・」

 不服そうに、彼女は煙草に火をつけた。献血のポスターの花形スターのほっぺに、ジリジリと押しつける。
「あー。戦いてー・・・強い奴いねーかなー・・・強い奴」

廊下では、ベッドが運ばれている。
「それ重症?ならこっち!はいはい!」

マーブルが、ベッドを搬出する指示。こちらも手慣れている。
「接続を離すな!せつぞくを!」

また別の声。

「重症からだよ!重症から!呼吸器、それいけるかー!」

 外には、呼びだした新規の救急車が揃ってきた。もちろんここの地元とその周辺から呼び出されたものだ。各、救急車は詳しい事情は知らない。彼らは・・<転院>という名目で呼ばれた。ある意味、それは間違ってはいなかった。

 職員らは1人ずつ、統制のない状態でバラバラに去っていく。みな持ち物があるのか、患者への憐れみか・・・何度も何度も振り返る。

 外車はゆっくりと走り始めた。何かに引火したボンベが爆発、病院横の小屋がズドーン!と数メートル原形のまま持ち上がった。

 僻地の病院が、わずか1日で崩壊した瞬間だった。

 足津は指示を出す。
「藤堂隊長」
<はい!>
「娘さんを残し、あなたの決めた標的に向かってください」
<はっ!>

藤堂隊長は電話を切った。
「では、わしは行くからな!」
「オヤジ。あたしも!」
「お前はここを死守しろ!誰が戻ってくるか分からん!」
「しかし!」

親父は彼女の短い髪を引っ張り、威厳を見せた。

「私情を挟むなというのが、あの方のポリシーだ!」
「くぅ・・・」

 真吾は爆風に髪を焼きつけながらも、ずっとずっと床に額を押し付けていた。
「すみません、すみません。だから・・・」

 もう、彼をかまうものは誰もいない。


 真田病院は、まだこの事実を知らなかった・・・・。




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