早速、1番目の救急車がゆっくりやってきた。窓から見下ろす。
「なによ!フフン!ま、やったるわよ!1件くらいならね!ポジティブポジティブ!」
チン、と後ろ向きでエレベーターへ入る。
「ダッシュダッシュ!ババンババン!へへっ!」
かつて、ユウとはそのコベンとして半年ほどタッグを組んだことがある。だがもう5年ほど前の話だ。
その頃、もぬけのカラと化した僻地病院では・・・
3階医局の4つの椅子の1つに座り、藤堂の娘が暇を持て余していた。彼女は椅子をキーキー、と左右に振り回し・・・
ダーツを投げている。マジックで自分の作った的。よくは見えないが、白衣を着た医師の写真のように思える。
「・・・ビンゴ!」
また狙いを定める。
「あーっ。クソ!どうなったんじゃーっ!」
オヤジの携帯を何度も鳴らすが、不在。彼女はどうしても次の<現場>に行きたかったらしい。
狙いをまた定め、2本同時に放つ。いずれも写真には当たるが、そのまま落下。
改めて見まわすと、それぞれの机に書類が散乱している。彼女にはナースの資格があり、医学的なものはなんとか分かる。だが<使える>データはみな足津の部下たちが持って行った。
近畿の医学雑誌が丸ごと本棚にあり、バックナンバーを指でたどる。
「・・・・・」任意の1冊。薄い。また戻し、数冊飛ばす。読む。
「・・・・・!」何かに気づいたようだ。熱心に読み始めた。
< 真田病院 分院を奈良に開院 医官らによる謀反発覚 >
< 小児科を追加開設 住民流れ込み >
< 医官ら 真田分院へ乱入 停電 乱闘 >
< 住民投票により、真田分院 生き残り決定 新興勢力 夢の跡 >
次々と雑誌を読みふけるうち、記事の内容が変化を帯びる。
< 真田分院 職員応募殺到 人件費による経営圧迫 >
< 真田分院 経営管理を自治体へ譲渡 >
< 真田分院 経営軌道に >
そして現在へと至る・・・。もちろんそのあとの記事に< 院長 ファンドと悪魔の契約 >となるのであるが・・・。
「・・・・・・・」
また、カン!と打ちつける音。彼女には関心のない過去だった。
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