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2009年6月10日 連載

 ミタライが呼ばれた頃の、大学病院。

 無数の乗用車が周囲をかすめていく。駐車場は飽和状態で身動きとれず。天下り的な老人たちが、融通利かぬ交通整理。まるで公務員の老後の安全を象徴するような人々だ。その間をぬって空いた迷路を、患者たちが歩いてくる。

 医局から見下ろすノナキー医局長。半袖白衣の上に長袖白衣。名札に<野中講師>とある。

「今の若い医者ときたらな。どいつもこいつも、よその病院がいいって・・・だから俺は言ったんだ。<病院なんか、どこでもいっしょだろ?できる奴はでき続ける。できない奴は、どこでもボロが出る。お前はどっちなんだ?>ってね」

「あっそ・・・俺はそんなこと、よう言わんわ」ユウは出されたコーヒーを空だが傾けた。
「臨時当直おつかれさん。またお願いする。これは医局長の俺様から」
「おっ。そりゃもらわんとな!」

わずかな寸志を頂く。反射的にポケットにしまう。

「うちの病院も給与が減ってなぁ・・・事務長の奴」
「お前もとうとう、金のことを気にするようになったか?」<医局長>は目を丸くした。

「そりゃ、いい気はせんだろ。ま、事務長でなくうちのオーナーが、そう決めたらしい」
「品川さんがまた勝手に決めたんじゃないのか?」
「いやいや、あいつはただの事務長。新しいオーナーが決めたんだってさ。そういう時代らしい。今は現場を知らない人間が、現場の末端の人生を勝手に決めれるらしい」

ユウは時計を一瞥し、立ち上がった。

「ま、がんばろか。人手が少ないのはお互い様だしな!」

ノナキーは近畿の医学雑誌を開いた。1年以上前の記事。
<白熱する真田病院。救急ラッシュを乗り切る>

「真珠会という病院も、よくやるもんだな。ここには書いてないが。救急を予告なく送ってきたりするとは」

「ああー。もう大変だった。紹介状がないまま夜中に何人も送ってくるんだ。いったいどんな既往があって、どんな治療をしてきたのか、これがまたさっぱりわからんのだ!」

 近くで、まるで気のあるような見上げた目で見つめる学生たち。

 ノナキーは出世街道を進むにつれ、いろいろ関心を示してきた。不思議だと思うことは徹底的に調査する。

「ユウ。奴らの目的は何なんだ?」
「奈良の僻地病院でも経験したが。医師を疲弊させて病院をそのまま乗っ取る魂胆だ。あーメモすんな!学生!」
「ま、うちは。大学病院は関係ないか・・・」

 ノナキーは、カンファレンスの始業を気にした。1人1人と、せわしく医局員が出入りする。挨拶をものともせず、彼はボールペンを鼻の下に。いや、今ではろくに挨拶できない医者が増えている。

「医局長ってユウ、お前言うけどな。雑用係だよ、医局長というのは。まんまとはめられた。尻拭いにしかすぎん。それに・・・何のキャリアにもならん。お前のように好き勝手に歩めばよかったかもな」

 もちろん、本心ではない。

 医局員ら1人1人が、よそ者のユウを見る。

 ユウは気にして、荷物を背負った。

「出世は拷問だな。マゾしかできん。おれサド先生だから。じゃ帰るわ」

ノナキーは廊下に顔を出し、そのままカンファの途中参加。

「さ。できたか!・・・・1人、足りないな。進行役・・・おいミタライは!」
助手の1人が、外を指さす。
「なに?またバイトか?院生ごときがまったく・・・もういい始めるぞ!」

 いつもの進行係を別人に指定、カンファが始まった。


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