ユウは、正面玄関を出た。外来患者はすでに殺到、駐車場は満杯。その左奥、妙な銅像のようなものが立っている。囲いがされていて詳細は分からないが、工事中のようだ。ざっと10メートルはあると見た。
「なんだぁ、ありゃあ・・・どこかの教団か?」
近くで、一生懸命ビラを配る青年。
「お願いします!お願いします!」
「おい・・・」無理矢理、ビラを押し付けられる。
<アナトミア・・・パーク>?
「ユウキ先生・・・ですよね?」学生らしき青年は上目遣いで見た。
「なんで知ってる?」
「近畿の医学雑誌で。先月号で僻地病院への派遣の募集記事がありました。僕も将来希望します!」
「お前何年生?」
「さ、3年です!学祭実行委員の者で・・・」
行きかう患者・家族に、双方とも左右に飛ばされる。
2人とも、おのずと<銅像>へと歩く。
「あの塔はなんだ?」
「あ、あれですか・・・はい。正体はまだ明かせなくて」
「人間の形か?うっすらと、そう分かるが」
「さすが!さすが先生!」
「だって、<解剖パーク>だろ?どうせ人間の断面図みたいなの作るんだろ?」
「ええっ?ひ、秘密のはずなのにどうして?」
「だって。学生ってその程度だろ?」
「へへ・・・」
<像>の手前、両足が寝そべった状態でこちらに突き出している。
上半分は解放されており、建設中のためかトンネルの下半分と化している。
内側に書きかけの絵。
ユウは正面からのぞいた。
「この中を、車でも走るのか?」
「ちゃんとした専用の乗り物がはい。つきます。右足が静脈用で、左足が動脈用」
「すると右足の通路が静脈系で、動脈系が・・・」
「大動脈へいきます。ハイ。どっちから行く方がいいですかね?」
「いいかげんな解剖だなあ・・・」
足の先を見ると、線路が続いている。
「果てしない線路だな・・・」
「大学を一周すべく、施工中です。これで大学病院も見学できます」
「お前らヒマなんだなあ・・・」
「僕ら、将来は暗いじゃないっすか。だから学生のうちに輝きたくて」
「なんで暗いと分かるんだよ?ん?女はいないのか?」
学生は、貯金箱を差し出した。
「・・・・・」
「なに?」
「先生。その袋」
「これ・・これか?」
ポケットからさきほどの寸志がはみだしている。
「こ、これは・・労働の証だよ!」
「若干だけでも、恵んでくだされば」
「募金といってもだな!小銭じゃないんだよ!」
「最近、開業医からのカンパが少ないんです!」
「帰るわ!あ、呼ばれた!」
と、ふった途端わずかにチャラ、という音。
「あ!今聞こえた!」
「ち・・・」
封筒を逆さまにすると、5百円玉が2つ。
封筒を覗くと、千円札が2つ。
「なんだよ。これだけか・・・やっぱ暗いわ。お前の将来」
「5百円!5百円!」
学生は感謝のおじぎをしつつ、2枚とも貯金箱へ。
「金ならなあ!院生からもらえばいいんだよ!奴ら、もうかってんだからさ!」
「OBで誰かいらっしゃいませんか?」
「松田先生のところなら・・・」
「松田クリニック!」
「もらいに行ってもいいが、俺が言ったというなよ。あ。ちょっと待て。あそこ、そういや・・・活気がないな。最近」
携帯がブー、と鳴る。
「もしもし?あー。今度は本物だ。はいはい・・・じゃな!」
「では先生!学祭、来てくださいよ!」
ユウは学生に背を向けた。
「大学祭か・・・!」
大学祭は秋に控えており、夏からだとまだまだだ。だが準備は着々と進められていた。
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