ユウは、ミタライのいるその病院の近くを偶然通り過ぎた。救急車が2台、入っていく。ベンツのような黒い外車3台も続いた。
「・・・・・・あの病院活気あるな。もうかってんのかな?」
アクセルを踏みこみ、真田病院へ向かう。車内電話で通信。前方を直視。
「・・・なので。たのむよ!」
ナースに連絡し、切る。近く、松田クリニックが見える。
さっきも触れたが、確かに活気が減っている。まず、病院前の人だかりがない。周囲のいつもの路上駐車もあまりない。どうやら休診のようだ。
「いよいよ、あいつも辞めんのかな・・・よっしゃあ!」
ユウの友人たちも開業をし始める者が出始めたが、軌道になかなか乗せれない悩みが多いようだ。どこでも病院は飽和状態にあり、新規で患者がドッと生まれてくるわけではない。結局どこかに受診している患者を奪わない限り、固定客として定着できない。
松田クリニックは例外だった。まず<胸部内科>メインという希少価値があること、かつてユウの努力で大学病院から患者を多数紹介したこと、それと・・・院長が入院した宗教のコネで信者らの指定病院になっていることだった。
大阪では利権団体、宗教団体がかなりの生活保護者らを牛耳っている背景もある。自治体スタッフは自分らの任期中に波風を立てたくなく、放置しているのが現状だ。
しかし、妙な噂もある。このクリニックがどこかの病院との連携ができるようになったとか。あるいはそこと合併するとか。
だがそれも考え過ぎのようだ。クリニックはあまりパッとしてなさそうで、松田先生からも連絡がない。人間関係としてはかなり悪化していた。クリニックで誤診していた患者の診断が、真田で次々と明るみに出たからだ。他のところのように、うまく隠ぺいし合うのだけはゴメンだった。
気がかりなのは、ユウの同僚後輩であるシローが、未だにここへアルバイトしていることだった。給与がかなり高いのが魅力なのだろう。しかし、あの純真な男がそこまで金にこだわる理由がユウには分からない。自分の親友が金に染まるのを彼は嫌がった。
彼としては、犬猿の仲の開業医に常勤を<派遣>するのは不快この上ない。
グオーン!と車はタヌキの置物を風で揺らした。
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