シローは、机の一番上の引出しをゆっくり開けた。
「・・・・・・」
<離婚届>。ワイフから突きつけられたものだ。
ハー、と彼はため息をついた。
救急のコールがなり、ユウらは一斉に駆け出した。
「はっ!はっ!シロー!まだ松田のクリニック手伝ってんのか!」
「ふっ!ふっ!もうやめようかと!でもうち、コスト(給料)減りましたし!」
「あんなヤブ医者!手伝ったらバカが移るぞ!」
「最近口が悪いですよ!先輩!」
2階、3列滑り台の手前。ダッと飛び出し、斜面を滑走。揃い、交互にわずかに先頭。
「救急車、来たな!事務長!内容は?」
<意識混濁の80歳です.ので。ほどほどに>(イヤホン)
「どういう意味だよ!」
ユウとシローはビュン、と砂地まで飛び上りそのまま着地。片足でブレーキ。煙から現れた時は、チューブなど取り出していた。ウエストポーチは左右ダブルに正面。アンプルどうしがキシキシとこすれる音。
事務長はガラスごしに見下ろしていた。
「うんうん。働け働け!給料分、頑張ってもらわんと!」
「高齢者、増えましたね・・・」
そう喋ったのは、補佐の田中だった。
「高齢者はともかく、問題は世話をする人間たちのモラルだよ。以前はここまでではなかった。いったい世の中、どうしちゃったんだろ?」
「いったん入院させたら、病院任せですよね。どの家族も」
「増えたなぁ・・・高齢者の横暴ぶりも目立つ。ユウの言う通り、薬剤の副作用かな?」
「それか・・・これも時代でしょうか?」
「僻地でハカセという医者に言われたよ。<高齢者はこれまでの裕福すぎた分、試練と覚悟がもっと受けるべきだ>って」
「高齢者は、若い時に苦労してるでしょ?」
「あの医者はそうじゃないって言うんだ。戦争のカタを心でつけてないって」
「事務長。頭大丈夫ですか?」
シナジーは顔をあげた。
「試練と、覚悟、か・・・・!」
下を、ベッドが運ばれていく。事務長らの床の下に隠れる。
「国は、受け皿としての病院体制は整えたようだ。医学も発達した。でもそれで全体のバランスが取れたのかどうかは疑問だよな」
「でも長生きするのが医学の目標でしょう?」
「うーん・・・」
写真タテが落ち、田中は拾った。
「1年前の写真じゃないっすか。僻地病院の!」
「落ちるとは不吉な・・・」
「やめてくださいよ。でも・・・今ではあの先生が、真吾院長!院長ですよ!彼、元気にやってるかな・・・」
「連絡ないな。最近全然。しても出てくれない」
事務長は背伸びした。
「あ~・・・あ!」
「うちのオーナーが、その病院にあまり尽力してないって噂ですが?兄弟病院なのに」田中はパソコンでゲームを始めた。
「いやいや。経営はもうとっくに自治体に移ったんだよ。給料もそこから。僕らは口出しできないの!久しぶりに電話してみるから、田中くん。出てよ」
「なんでぼくが!」
事務長は僻地病院の番号を押した。
「・・・え?」
切った。顔が青ざめた。
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