品川は戸惑っていた。嫌な予感もよぎった。
「<使われてません>って。番号、間違えたのかな・・・」
「ちょっと事務長。どこかの女の番号と間違えたんでは?」
「女には、番号よく変えられるな確かに・・・」
田中君が、自分の携帯でかけ直す。
「・・・ホントだ。<使われてません>になってる」
「真吾院長のは・・・<電源が入っておらず>か」
「どうしたんですかね?」
ユウからアナウンス。
<処置はすんだ。入院、上げるぞ!>
「せっかちな。ナースの準備も考えてください!」
<はやくせい!はよう!>
事務長はため息をついた。
「医者が足りないねえ・・・」
「募集はどうなりました?」
一応、事務長の手元に履歴書が7通くらいある。
「このうちドクターバンクが4つあるんだけど、年収の1~2割が手数料となるとねぇ・・うちでは」
「オーナーの許可はないですか?」
「半年か1年ごとに手数料っていうのが、どうもねぇ・・」
業者に足元はみられてる。特に肩書や資格が多い医師ほど、高く価値をつけられている。証券化されたような履歴書だ。
田中君は残りの3つを確認。
「1人は高齢者で論外。1人は平日のみ希望。あれ・・・これは?」
その1枚は、地味だが気を引くものがあった。
< 体力に自信あり 料金問わず >
「こんなこと、普通書きますかね?」田中君は苦笑した。
「医者はね。変わってる奴多いから」
品川は、ガラス張りの下のユウを指さした、狂ったように吠えている。
「その先生は有名だよ。赤字を黒字にできるくらい」
「建て直しの専門?」
「そういうのじゃないが、あちこちの民間病院の経営の相談を受けてるって」
「欲しいですねぇ。そんな先生。若いっすよ?まだ30代!」
「これからは、30代が牽引役なんだよ!」
品川は皆の給与体系をパソコンで確認した。
「・・・来てくれたら、はずむようオーナーに相談しよっと」
「品川さん。減給の件。シロー先生の場合はきついでしょう?」
「家族があろうと揉めてようと、不平等はいかんだろ」
「いきなり辞めたりしませんかね。彼・・・」
「それは僕も感じてる。そのためこうやって、山ほどの履歴書を取り寄せる」
バンクなしで、しかも医師会の関与もなしに医師探しをするのは骨が折れる。いちばんいいのは、常勤が後輩・先輩なりを呼び寄せるのが一番いいのだが。
ユウやトシ、シロー・ザッキーらの<大学医局中退組>は、敵だらけだった。
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