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2009年6月11日 連載

大学病院の教授室では、新任教授をノナキーが見下ろしていた。この教授は前任の高齢者とは趣が異なる。若造りで50歳前後、いやそれ以下と思われる。

「私も若くして教授となり、君ら若い世代とともに・・・まあ確かに歓迎会でそうは言ったが」
「そうですよ教授。教授のような方が来ていただいたから、この医局は盛り上がっているのです」

白黒の、前教授の遺影がある。

 だがこの医局。一斉退職もあって、盛り上がるわけがない。一斉退職は、よそから来たこの教授への対抗心も関係なくはない。

 ノナキー的には、ゴマをするのが大の苦手だった。だがそれが出世の手段だ。大学で生き残るには常にアピールしなくてはならない。ライバルの欠点でさえも自分のセールスポイントにするぐらいの覇気がいる。後悔は時間の無駄だし潰瘍の原因になるだけ。外資系のファイトが必要だ。

「私もここまで生きて、まさか自分の医局でミタライ君のような過労者が出るというのは・・・実はこのように、初めて動揺しているのだ。彼女はいま、どこに?」

「熱中症で脱水がひどく、ICUだそうです。思ったより重症のようで。自分はまだ病状の確認には行ってませんが。正直、僕もここまでとは聞いていませんでしたし」
「・・・・・・・」

教授はどことなく、疑いの目で見た。

「ところで教授。わが医局として最大の屈辱です。たいして設備のないバイト先病院に、救急を集中させてくるなど・・・人間の考えることではないです」

近畿の医学雑誌がバサッと開かれた。
「1年前。同じことが友人の病院でもありました」

「真田病院か。前の経営者が脱税して、一躍有名になったとこだな。そこが言うには、シンジュカイ病院とやらの仕業か?」
「僕もそう思います」

「だがその真珠会に限ってはありえない。調べたところ、内視鏡で有名なあの優秀な赤井院長が仕切っている病院だ。学会の理事でもあり、論文もたくさん出してる。そんな優秀な彼がそんなことをするわけがない」
「ですが。首謀者がその方とは限りません!」

しまった、と思ったのか少し間があった。

「うむ。まあ真珠会ではないだろうが、この事件は実に許せん」
教授は椅子を窓に向けた。

「教授。ここはまず法に訴えるべきです!警察を通した調査を!訴訟を!」

「訴訟・・・?いきなり訴訟とは若いね。第一、証拠がないのに」
「では医師会へ。今度、医師会の集まりがあります。教授。そこで意見を」

「わ。私は波風を立てたくはない。ましてやそんな一瞬の感情ではな。君もこれを機会に自分と向き合い、いろいろ学ぶといい」

 バン、と立ち上がり、教授は去った。やはりこの教授も、器でない。自分の将来をどのように左右するか。居座り型か協力型か。それも不安の種だった。

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