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2009年6月13日 連載

「うわ!まだいるぞ!」

 ピキーン、とライトをつけたトラックが停まったまま、病院1階のど真ん中でたたずんでいる。周囲は瓦礫と書類が散乱している。

「誰が乗ってるんだ事務長?」
「し、知りませんよ!」
「お前。誰かリストラしたのか?」
「してませんよ!勝手に辞める人ばっかりですよもう!」
「お前に恨みを持ってる奴だろ!」

 さっきまで行方不明だった小柄のザッキーが、トラックの前輪を乗り越え、そろ~、と運転席の近くまで登っている。

「命知らずな・・・」ユウは傍観した。
「要精査、と判断したんでしょう」シナジーはゆっくり降りにかかった。

 田中はトラックの正面で土下座して命乞いしている。たぶん時間稼ぎだろう。だがそれが彼のいいキャラだ。

 ザッキーは運転席のドアを開け運転手の腕を引っ張り、そのまま重力に任せ落下しはじめた。

「てやあ!堕ちろ!」
「!」ヘルメットの長身が、ザッキーとともに3メートルほど落下した。

 ヘルメットはバウンド、同時に甲高い悲鳴。運転手の上にザッキーの体がバウンドした。

「あうんっ!」
妙に色っぽい声?

ザッキーはワンバウンド、はずみで手首をねん挫した。
「いたあああっ!くそ!お前のせいで!何が<あうんっ>だ!」
襟をつかもうとしたら、むにゅっとしたものをつかんだ。

「うっ?女性化乳房?てかオンナ?」

 その隙に、ザッキーに電流のようなものがズバーン!と走った。即、ごろごろ転げまわる。煙も出た。
「たっ!たた・・・うあ!」

 一瞬の出来事だった。

 モクモクとした煙が消えたとき、その姿はなかった。ザッキーのあちこちから、焼け焦げたにおい。

「つつつ・・・」
「ザッキー。火でもつけられたのか?」
「水。水・・・」
「スタンガンかな・・・」

シナジーは自販機にコインを打ち込み、ペットボトルの水をぶっかけた。

「いやあ。ここまでは痛まないでしょう?もっといるもっといるぞ!田中!」
「ふぅ~!いてて!・・・ここも!」

奥の闇は深く、何の姿も追えない。

田中はドクターカーの点滴を取り出し、さらにビュー、と浴びせた。

「かけてほしいとこは?ないですか?」
「がが、顔面シャワー以外で・・・」目覚めた。
「おっ。大丈夫のようですね!」

よく見ると、衣服があちこち破けている。ユウは傍観した。

「そうだな。スタンガンなんてもんじゃない。まるで雷にでも打たれたみたいだな・・・どうする?品川。孔明。何か策は?」ユウが聞く。

シナジーは、周囲に何もいないのを確認した。

「半径数百メートルは大丈夫。とりあえず、ここで夜を明かしましょう。役場の営業開始を待つのです。自治体に詳しく事情を聞きましょう」

「それ、策ってもんじゃないな・・・」


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