真夜中で、しかも近くには店も交番もないところだ。当直室などから毛布を引っ張り、数枚はそろえた。田中君が腰をおろす。
「はぁ~。やっと集まりましたよ。病院の物品が、ほとんど取られてないですもん」
ザッキーの背中、軟膏を塗るシナジー。
「駐在所も不在です。とことん過疎地になりましたね。ここは・・・」
ユウは埃を払い、暗い周囲を何度も見回した。
「なあ品川。病院が移転したってことはないか?」
「先生。さっきの日誌から察すると、何かに追われてたと考えた方が」
「追われて・・逃げたと?あいつがそんなこと、するわけないだろう」
シナジーは真顔になった。
「いや。人間分かりませんよ。追い詰められたら何をするか・・」
「真吾はそういう奴じゃない!」
「はいはい。そうでした!」
「追いつめられたら、話し合えばいいだろう。第三者を介して。ただし暴力か何か絡んだなら、これは事件だ」
ザッキーは疲れ、鼾をかき始めた。体の半分が包帯でくくられた。
ユウは立ち上がり、近くにある滑り台を見上げた。
「僻地の病院作るために、死ぬ思いまでしたんだぜ?」
「わ、私に言われても・・・」シナジーは自信をなくした素振り。
近く、影が走るが誰も気づかず。
携帯の電波がいっこうに立たず、みなメールなど見始めた。
田中君はケータイを閉じた。
「またなんか・・・聞こえません?」
耳を澄ますと、ギギ・・という音。ロープがきしむような音。
シナジーは身の毛がよだった。
「とりあえず!出ましょうよ!」
「(一同)お、おう!」
田中君はザッキーをゆすった。
「起きて!起きて!」
「う・・」
「困ったな・・・<急変です>!」
「なにっ?」
ウソのように起きた。
倒されたテーブルやイスの脚を乗り越え、みなダッシュした。
ユウが横目で見ると、大きな柱にロープ。その奥の奥に・・・
「べ!別のトラックで引っ張ってる!」
「えーなにー?」シナジーが驚いた。
「何が半径数百メートルだ!品川!」
「別のトラックは計算外で・・・!」
すると、頭上の天井のハシッコがみるみる迫ってきた。
ユウらは出口を目指した。
「は、柱が引っ張られてんだー!」
ロープは大きな柱を食いちぎり、真っ二つに折れ曲がった。即座に、天井が端から順番に落ちてくる。よりによってその端の下を、ユウらが駆け抜ける。
「(一同)うわああああああ!」
やがて病院の2階、いや3階部分が力なくグシャッ、と傾き、それとともに1階部分がズドーン!と豆腐のように倒れ込んだ。
続いて流れるように他の部位が力尽きた。
ズドドドド・・・と、僻地の病院は巨人に踏みつぶされるがごとく、力なく倒れていった。不健康そうな煙が四方八方へと広がっていく。
残されたのは、コントのように埃をかぶった真田のスタッフらだけだった。
コメント