あちこち傷をおった白いドクターカーのエンジンは・・・田中君の粘り強さで、何とか始動した。
みな無言で乗り込む。ケータイの電波は、やっぱり立たない。真田病院への連絡を役場からすればよかったが、あそこでは浮かばなかった。
田中君は運転席で、外の誰かと話す。何やら困ってる。
田中君はツマミをあちこち回す。
「クーラーの効きが、弱いかもしれません。ご了承を」
誰も返事しない。ザッキーはあちこち傷が痛んでる様子。
「てて・・・来なきゃよかった」
ユウはちょっと落ち着いてきた。
「ふう・・・さっきはクソクソとすまんな。でも本当にクソがしたくなってきた」
「真吾先生は大丈夫ですよ」根拠なくシナジー。
「お前のな。そういう適当な口説き文句が嫌いなんだ」
「場を和らげようと思って」
「するな」
「はい・・でも」
「だ・ま・れ!」
「・・・・」
運転席でハッとした田中君は、いきなりドアを開けて外に出た。
すぐ外、タンクトップや薄着の地元住民。
田中君は対応に追われるように身振り手振りし始めた。
「こちらはどうにも・・・」
「夜逃げや!きっと夜逃げや!」近所のオッサン。
「理由が分かり次第」
「ホンマ、あてにならんな!あの院長、家族に捨てられて行き場ないからここへ来たんやろ?所詮それだけのもんよ!」
車に乗りかけたユウは、にらんだ。
「なんだと?誰のことを・・」
「なんだと?やって。今おい、聞いたかみんな?」
オッサンはひるんだが、周囲の数十人が頷いた。
ユウは疲労のせいか、自分でもどこか人が変っていたように思えた。
「今の、言いなおしてくださいよ。院長として、ここでずっと奉仕しようと決めていた人間ですよ?」
「よう分からんわ。医者の言うことは長すぎて」
「なに?」
「じゃあ、なんで今おらんねや?どこに行ったかお前らなんで分からんねや?」
「くっ・・・」
「そういう連携をするとこから、始めるべきじゃないんですか?」
「・・・」
「お・医・しゃ・さ・ん!」
ブルルン、とエンジンも怒って聞こえる。
「ほ、本当の理由もまだ分からないのに、勝手に話を決めつけるな!」
「おーこわ。みんな聞いたか?こんな言葉、患者に言うか普通?こぉんな常識がない医者はな、どうせろくな診療せえへんで!わしは診てもらいとうはない。なになに。真田病院・・・ジャロかジャフにでもに訴えたるさかい!消え失せ!」
「(民衆)そうやそうや!消え失せ消え失せ!」
ユウは車に乗り込んだ。住民が双方から車を揺らす。石も飛んでくる。
「ダメだこいつら!なんで俺ら、こんな地域に加担したんだ!」
田中君は無言で、車を発進させようとした。
「だ・・だめです!両側から持ち上げられている!」
グラグラがだんだん大きくなってきた。シナジーが身を乗り出した。
「田中!サイレン鳴らしてひるんだ隙に、バックして即ダッシュしろ!」
「あわわ!いきますよ!」
いきなりピー!ポー!という音と同時に、みな反射的に離れた。
「(住民)うわああああ!」
ドクターカーはバック、前輪が先に地面にたたきつけられた。続いて後輪。その後輪は前にキュルル!と回り始めた。
品川は叫んだ。
「田中ー!ゴーゴーゴー!」
ドクターカーはやや斜めに傾きつつ、ドバン!と弾丸のように突っ切った。機体が一瞬浮いたようだが、軽快にバウンドした。
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