車はブブ・・・と山道を下り始めた。
田中君が手紙のようなものを開いた。
「ユウ先生。前の席からすみませんが」
「なんだ!」うしろへ回す。
「手紙です」
「・・・?」封をゆっくり切る。
「さっきはどうしたんですか先生。さっきも一般人相手に乱暴な・・・」
「何が一般だ!あれが奴らの正体だ!」
「(小声)ダメだ。怒りが頂点になってる」
「俺はくそ!くやしい!くやしいんだ!人の心に土足で踏み込むあの連中が!」
涙が少しだが、爆発的に流れた。
「ちくしょう!ちくしょう!」
しばらくして、やや落ち着いた。ユウは携帯をいろんな方向に向けた。
「くそ。未だに真田に携帯がつながらんな。まだ圏外だ。え?」
「その手紙は、1階の事務室で見つけたものです。おそらく辞表のようなものだと」
「おいこれ!真吾の自筆じゃないか!当直日誌以外にもあったのか!」
辞表か、それとも最後に書き残したものなのか。これがユウらが読む、真吾の最後の言葉となる。
キキッ!とドクターカーは止まった。
田中は悩みぬくように、ハンドルに顔をうずめた。
ユウは速読。
「読むぞ。ていうか要約すると・・・<みなさん、すみません。家族も失い巨額の負債を背負い、仲間の信頼も失った自分には・・・>巨額の負債。さっきの件だな」
みな正面を見て各々うなずく。
「誰かから強引に借りさせられたんだよきっと!彼が自分で借りたんじゃない!」寝かけのザッキーも飛び起きた。
「<これ以上ストレスフルな神経に、さらなる労力を引き出すのは自分には不可能と判断しました。村長に相談しようにも取り合ってくれず・・・自分は精一杯やりました。>やはりか。あの村長はしょせん、その程度の奴だよ」
ユウは手紙を顔から遠ざけた。あとはとても読み上げにくい悲しい文面だ。
「だからといって。そのまま過労で押し潰されたとでもいうのか?なあ品川」
「・・・・・・・・・・」
「真吾だけならず他のスタッフも?なぁシナジー!」
「あるいは、その貸し手が期限を迫ったか・・・それが最も有力でしょう」
「俺たちに連絡してくれりゃあ・・・」
「それにしても。この半年間。どうして、私らに連絡をよこさず・・・」
「そうだよ。言えなかったのか・・・なあ真吾。そうなのか・・・」
流れる雑木林を見ても、答えは見つからない。
表現はどうかと思うが、どうやら夜逃げにまでせざるを得ない、そんな状況に陥ったってことは確かなようだ。というのが彼らの推定だ。
まだ実感がわかない。金によるトラブルなど、今まで関わったことがない。こういうことは、どうしようもない人間がするものとユウは思ってた。
時代が、変わりつつあった。
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