37

2009年6月13日 連載

 大阪市。道路は渋滞の嵐。そして真田病院。地面から昇りつめる蒸気。

 トシ坊、日系人ピートが救急入り口前、駐車場で走り回っていた。救急ラッシュを受けつけている・・わけではない。

「(2人)ちょっと待ってください!ねぇ戻ってください!」

 彼らの背後から、まるで指の間からこぼれる勢いで、患者らが小走りに去っていく。

 彼らの向かう先は・・・大きな横断歩道を隔てた、2階建ての新規開業医だ。

 垂れ幕がバサ、と降りた。

<新・マツダすこやかクリニック>

 真田の受付では、外来患者が受付の返品ラッシュ。診察券がどんどん返されていく。

トシ坊は痛い背中と尻をさすりつつ、疑問を投げかけるだけだった。
「どどどうして?どうしてうちの外来客がみなこぞって?」

その疑問は近くのアドバルーンでわかった。

放送が流れる。

<え~。本日新装開店のマツダクリニック!朝刊の広告で見ていただいたとおり!>
「なんだって?」

落ちている新聞を拾うと、確かにカラーの広告が入っている。

「<本日より、新天地にて診療再開!>だって?しかもオープン割引?」

ピートもおなじく、うなだれた。
「病院がこんなことして、いいのかよ?」

よくない。

彼らはもはや、あきらめ顔だった。ピートはわなわなと広告をシワにする。

「フー。ガッデメ。ちょうど国の政策で患者負担が増えた、そのニュースが出たタイミングでこの広告か。負担が軽くなると今日知った患者らは、病院をエクスチェンジする気なんだろう」
「でもそんな。そんな人たちじゃない!」トシ坊の咆哮もむなしい。

 でも悲しいかな。患者、いや人間はみな目の前の情報に弱い。それが分かりやすく、安いものならなおさら。基本的に、群衆は疑わしく気まぐれだ。医療不信が育ってた矢先、もしそれを打ち破りそうな期待をもたせる病院があれば・・・

 彼らはとりあえず<試食>に向かう。

 トシ坊はピョンピョンと両足で跳ねながら、真田病院の空になった駐車場に出た。

「でもシロー。なんでお前まで!」

 痛い背中と尻をさする。


コメント

最新の日記 一覧

<<  2025年5月  >>
27282930123
45678910
11121314151617
18192021222324
25262728293031

お気に入り日記の更新

最新のコメント

この日記について

日記内を検索