大阪市。道路は渋滞の嵐。そして真田病院。地面から昇りつめる蒸気。
トシ坊、日系人ピートが救急入り口前、駐車場で走り回っていた。救急ラッシュを受けつけている・・わけではない。
「(2人)ちょっと待ってください!ねぇ戻ってください!」
彼らの背後から、まるで指の間からこぼれる勢いで、患者らが小走りに去っていく。
彼らの向かう先は・・・大きな横断歩道を隔てた、2階建ての新規開業医だ。
垂れ幕がバサ、と降りた。
<新・マツダすこやかクリニック>
真田の受付では、外来患者が受付の返品ラッシュ。診察券がどんどん返されていく。
トシ坊は痛い背中と尻をさすりつつ、疑問を投げかけるだけだった。
「どどどうして?どうしてうちの外来客がみなこぞって?」
その疑問は近くのアドバルーンでわかった。
放送が流れる。
<え~。本日新装開店のマツダクリニック!朝刊の広告で見ていただいたとおり!>
「なんだって?」
落ちている新聞を拾うと、確かにカラーの広告が入っている。
「<本日より、新天地にて診療再開!>だって?しかもオープン割引?」
ピートもおなじく、うなだれた。
「病院がこんなことして、いいのかよ?」
よくない。
彼らはもはや、あきらめ顔だった。ピートはわなわなと広告をシワにする。
「フー。ガッデメ。ちょうど国の政策で患者負担が増えた、そのニュースが出たタイミングでこの広告か。負担が軽くなると今日知った患者らは、病院をエクスチェンジする気なんだろう」
「でもそんな。そんな人たちじゃない!」トシ坊の咆哮もむなしい。
でも悲しいかな。患者、いや人間はみな目の前の情報に弱い。それが分かりやすく、安いものならなおさら。基本的に、群衆は疑わしく気まぐれだ。医療不信が育ってた矢先、もしそれを打ち破りそうな期待をもたせる病院があれば・・・
彼らはとりあえず<試食>に向かう。
トシ坊はピョンピョンと両足で跳ねながら、真田病院の空になった駐車場に出た。
「でもシロー。なんでお前まで!」
痛い背中と尻をさする。
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