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2009年6月13日 連載

「どけどけ!どけい!」

ラオウのごとく、巨漢が登場。みな道をあける。

ゆっくり白衣を着込み、受付情報をパソコンで確認。

「ふ~いふ~いふい。再診の予約の間に新患が多数。わしがツバつけた、真田の患者がけっこう来とるな。よしよし。こっそりやってた往診のかいもあったわけや。ン?」

彫りの深い若いナースが、獲物を狙うように上目遣いに見ている。手書きだが<藤堂>の名札が目に入る。

「お~う!あんたベルサイユのバラみたいやね~・・・へへへ。ラスカルやったっけ。ちょっと眺めてもいい?」
「どうぞ」
松田は、周囲を舐めるように眺めた。

「よろしくお願いします」
「これがまた。いい匂いやね~ん」

 髪を撫でられるのは屈辱だが、藤堂に我慢は慣れたものだった。

 老師長はカーテン越しにハンカチを噛んでいた。
「クゥ・・・!」
 イライラしたまま、シローの診療室に戻った。カルテが山積み。

「看護師さん。この7冊が検査!急いでください!外傷の軽い処置も急いで!」シローが指示。
「フー!」とため息。
「点滴処置がこれからあります!超音波するので電気消して!」
「はぁ?なに?そ、それはせんせいが!せ、先生がやってくださいよ!」
「え?」

老ナースは切れた。

「私たちのことを、あごでこき使うんですか?だって先生!今そう言ったじゃないですか!」
「言ってませんよ!」
「言ってなくとも!それに近いこと言いましたー!」
「いったいどうし・・」
「アー!アー!」

 両耳を指でふさぐ。

 非常勤のシローは、正直なめられていた。このままだと、スタッフらの欲求不満の吐け口になりそうだ。

 待合室でざわめきが。患者らは受付へ次々と向かい、院長診療を希望してきた。藤堂ナースはその光景をカーテンごしに見る。

「院長先生。師長さんの様子がおかしいようですが」
「もともとや。ほっとけ!」
「診療を開始しますか?」
「まだや。待たせ!」

 松田は大汗でパンをひきちぎっていた。

「はふ!あの師長な。賞味期限過ぎとるオバハンや。長年ここにおんねん。新しいことを何も学ばんと。するとこれがな。なかなか辞めんねん。女の武器もすでに失ってんねん。2の次にはボーナス出せとか言うしかないわけや!行くとこないさかい、ああやってストレス吐き出して気が済ましてんねん!」

「常勤なりたてのシロー先生も、とばっちりですね」

「だから!ええねん。どいつもこいうつもやな。生活苦があって、それこそ何でもしますって荘園に駆け込んできた、いわゆる難民どもや。それを手数料もらいて世話するのが民主的資本主義や。でもな。ここでサラリーマン顔負けの給料出してんねんやぞ?今さら文句は言わせへん!ははは!んがんん」

 ちょっと、むせた。

 若い藤堂ナースは背中をさすった。さほど動じてもなかった。松田がそれとなく、胸の横をタテに触る。

 あちこち怒号が飛び交いつつも、スピード外来はどんどん進んだ。

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