院長横の診療室。シローはうつむいていた。ナースらの嫌がらせで患者数が激減。奥で立ってる師長;老ナースは大あくび。
「ふあ~。も、この診察室。閉めようかな」
「あなたが、あれこれ騒ぎ立てるからですよ・・・!」
「はぁ?何のことですか?先生の努力が足りないからじゃないんですか?」
「よくそんな言い方・・」
「それをあたしたちにぶつけられても困るんですけど!ちょっとお!」
「いいですか?病院全体の利益を考えるなら・・」
「アーアー!」
また両耳栓。
それにしても・・・この老師長のいちいちハキハキした言葉使いが、余計彼を参らせる。
「もう、黙っときますよ・・・・・」
「あなたが。家族のために自分の売り上げ伸ばしたい気持ちはわかりますけど。そのために私が犠牲になるのはゴメンだし。なんで私までが!」
シローは歯をくいしばった。きつい一言だった。
「家族を宗教法人から取り戻したければ、自分で乗り込めばいいんじゃないですか?」
「誰からそれを?」院長からなのは明らかだ。核心を突かれすぎた。
「あれは素晴らしい宗教なんですよ?やめさせたら、もっと不幸になるんですよ?」
「信者か・・・」
「はい。そうですよ。あなたが入ったら、家族ともども平和に暮らせるのに」
「(キチガイか・・)」
「なんで、わからんのかねぇ~・・・」
シローは立ち上がった。
「か、勘違いするな。し、しないでください。僕はこのクリニックの一員でも医師であって、信者として診療するのではありません!」
院長との密約上、ここである程度の売り上げを達成できれば、家族を宗教法人から除名するとされている。そうすれば最初から家族と人生をやり直せると、彼は思いこんでいた。そんなことは現実には、こういう世界ではまず不可能といっていい。
シローは自分はここで、ここで働くしかない。そう決めた。仲間を裏切ってでも、しかしわけはあとで説明できる。いや、今だって何も裏切ったわけじゃない。
相談はしようとしたんだ。でもユウやトシキはひたすらバイトするな、するなそれだけしか言わない。とても心を開けるような相手はいない。
真田のコストダウンも、ユウらが反対しなかった。病院存続を優先するのは当然だろうが、細かい配慮がないように思えた。未だ家族も持たず一匹狼的な人間たちにも嫌気がさしていた。
シローの生活自体、困窮を極めていた。宗教で暴走した妻の借金を返していかなければ、将来まともな生活を子供に提供できない。
だからまずここでキャリアをコストを重ねて実権を持つことしかないと、彼は考えた。
だが、あまりにも障害が多すぎる・・・。
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