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2009年6月15日 連載

救急室に入り、呼吸器をセット。これも万一のため、こっそり設定はしていた。
「SIMVモード!おーい!レントゲン!レントゲンはー!」

 その頃、向かいの真田病院のベランダでは、トシ坊が携帯を取り出していた。
「?」
「どうした?」
 ユウは見るからにだるそうな顔をあげた。

「着信がありました。シローからの携帯です」
「あいつの・・・?俺は消してるから知らん。で?」
「・・・音だけが聞こえてますが」
「音だと?」

 ユウが耳を当てると、ガタン!バタン!という音のみ。

「これは何なんだ?救援信号か?」
「シローは今、向かいのクリニックでしょう?人はたくさんいますよ」
「そうだな・・・」

 シローは携帯をとっくに落とし、チューブを抜こうとする患者と格闘していた。

「抜くな!抜かないで!」
「があああああ!」物凄い力だ。

 シローの浮いた足が別のベッドに当たり、呼吸困難の患者も暴れ出した。
「ぐああああ!」
 チューブに手をやろうとする。シローの手がはじく。

 ベランダから病棟へ戻ろうとしたユウは、足を止めた。

「だが・・・もし、その仲間らが・・・」
「はい?」トシ坊は不思議がった。
「知らん振りだったとしたら?」
「何にです?」
「・・・知りたいか?」
「ええ」

 ユウは考え、駆け出した。

「あっ!先輩!」トシ坊は手を伸ばした。とっさに走れずケツが痛い。
「ならば知るまでよ!」
「いたた!走れない!」
「ヒャッホー!」

 階段横の手すりに肘をかけ、延々と降りていく。2階へ。滑り台前の椅子がある。近く、シナジーが小走りに。

「こら先生!廊下を走ったらいかんでしょうが!」
「だあ!」
「ひっ?」

 バッ、と椅子を飛び越え・・・滑り台に着地するもバランスが崩れた。
「わああああ!」

 シナジーは、その転がりざまを見下ろした。
「皆さん見なさい。自業自得とはあの事です」

 ユウは身を縮める姿勢で、そのまま砂地へ転がり込んだ。しかし煙が消えたとき・・・その姿はもうなかった。

 玄関の前、昼食の出前の自転車が置いてある。

「あとで返すから!」

 ビュー!と出たいところだが、チリンチリン、と気楽に走りだす。

 シローは動悸がし出した。
「うっ・・・なにがっ!」
 2人の患者を両手をはじき返すのが精いっぱいだ。チューブが抜けたら処置はやり直し。当然、病状にも影響する。

 1人の患者の爪が、シローの上腕をえぐった。

「ぎゃああああ!」

 その頃、クリニック正面の横断歩道から、妙な自転車がバウンドしてきた。
救急車を引き揚げ寸前の藤堂隊長が、道路近くまで出てきた。

「なんだ。ありゃあ・・・?医者?」
「どけ!どけ!どけ!」

 ユウは、そのブレーキの特性を思い出した。ラーメン屋のこの自転車は・・・


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