救急室に入り、呼吸器をセット。これも万一のため、こっそり設定はしていた。
「SIMVモード!おーい!レントゲン!レントゲンはー!」
その頃、向かいの真田病院のベランダでは、トシ坊が携帯を取り出していた。
「?」
「どうした?」
ユウは見るからにだるそうな顔をあげた。
「着信がありました。シローからの携帯です」
「あいつの・・・?俺は消してるから知らん。で?」
「・・・音だけが聞こえてますが」
「音だと?」
ユウが耳を当てると、ガタン!バタン!という音のみ。
「これは何なんだ?救援信号か?」
「シローは今、向かいのクリニックでしょう?人はたくさんいますよ」
「そうだな・・・」
シローは携帯をとっくに落とし、チューブを抜こうとする患者と格闘していた。
「抜くな!抜かないで!」
「があああああ!」物凄い力だ。
シローの浮いた足が別のベッドに当たり、呼吸困難の患者も暴れ出した。
「ぐああああ!」
チューブに手をやろうとする。シローの手がはじく。
ベランダから病棟へ戻ろうとしたユウは、足を止めた。
「だが・・・もし、その仲間らが・・・」
「はい?」トシ坊は不思議がった。
「知らん振りだったとしたら?」
「何にです?」
「・・・知りたいか?」
「ええ」
ユウは考え、駆け出した。
「あっ!先輩!」トシ坊は手を伸ばした。とっさに走れずケツが痛い。
「ならば知るまでよ!」
「いたた!走れない!」
「ヒャッホー!」
階段横の手すりに肘をかけ、延々と降りていく。2階へ。滑り台前の椅子がある。近く、シナジーが小走りに。
「こら先生!廊下を走ったらいかんでしょうが!」
「だあ!」
「ひっ?」
バッ、と椅子を飛び越え・・・滑り台に着地するもバランスが崩れた。
「わああああ!」
シナジーは、その転がりざまを見下ろした。
「皆さん見なさい。自業自得とはあの事です」
ユウは身を縮める姿勢で、そのまま砂地へ転がり込んだ。しかし煙が消えたとき・・・その姿はもうなかった。
玄関の前、昼食の出前の自転車が置いてある。
「あとで返すから!」
ビュー!と出たいところだが、チリンチリン、と気楽に走りだす。
シローは動悸がし出した。
「うっ・・・なにがっ!」
2人の患者を両手をはじき返すのが精いっぱいだ。チューブが抜けたら処置はやり直し。当然、病状にも影響する。
1人の患者の爪が、シローの上腕をえぐった。
「ぎゃああああ!」
その頃、クリニック正面の横断歩道から、妙な自転車がバウンドしてきた。
救急車を引き揚げ寸前の藤堂隊長が、道路近くまで出てきた。
「なんだ。ありゃあ・・・?医者?」
「どけ!どけ!どけ!」
ユウは、そのブレーキの特性を思い出した。ラーメン屋のこの自転車は・・・
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