5台の救急車は停車しているが、まだピーポーが聞こえる。そうか、向こうの真田に来た救急だ。
「・・・・」ユウは持ってきた物品をカートの台の上に1つずつ載せていった。
アンプル、チューブ類、ドレーン・・・・。点滴セットを作り、内視鏡の電源・・・。DCも用意。ミニ超音波ともいうべき機械。
動物使いのように、隊長は次々とベッドを飛ばしてきた。
「それいけ!やれいけ!」
「待てよ!ったら!」足で、次々と止めにかかる。
目の前の腹痛の患者にとりかかる。
「痛い?これは?」
点滴を確保。
「レントゲン、行こう!」
ベッドをそのまま流し、寝ているシローのもとへ。
「シロー!早く起きろ!」
「・・・・」
呼吸困難。超音波のスイッチ入れる。
「つかん。つかんぞ!あ、電源・・・」
酸素マスクを用意。認知・判断・操作とはいうものの、この3つは別の脳で処理していった。
救急車内にコンセントが入り、ユウはプローブで観察。
「・・・・・心不全だ。原因は不明」
マジックで、毛布に略字で所見。
次は・・・朦朧としている。呼吸はやや弱い。口の横に白い・・なんだこれは。
口の中の匂いが・・
「うわっ?この独特さは・・」
胃チューブ、洗浄にかかる。手首にリストカット跡。
「何か持ってないのか?」
セカンドバッグ有り、中に服薬。
「・・・・なるほど!」
自殺企図か。内服して時間が浅ければいいが・・・。
もう1人、朦朧としている。顔が真っ赤。
「酒臭だ。一酸化炭素というわけではないな・・・」
洗浄しながら、もう1人の点滴確保。
心不全の患者、思わず起座呼吸となる。点滴がひっこ抜かれる。
「利尿剤、いこうとしたのに!」
擁していた注射器、いったんベッド横に。
やむを得ず、そけい部(股)で点滴確保。抜かれないよう周囲を巻く。
「すまん!」
アルコール中毒、顔色が悪化。
「しまった!」
吸引チューブを取り出し、持っていくが機械の調子か、吸えず。
「タンをおい!吸えよ!」
仕方なく、注射器で接続。手動で何度も勢いで引っ張る。
「ちきしょう!ちきしょう!」
横向け、背中を叩く。
患者はむせ、勢いよく吐き出した。
「ぷあ!」
「ぬわっ!」
ゲロと痰が隊長の顔に飛んだ。
ユウは処置を終えたベッドを、スローでシロー方向に飛ばした。
「シロー!写真、続々と撮れよ!」
最後の1人は察しがついた。
「レントゲンにCT撮ったら、チューブ入れると思うので」
若年の気胸と思われた。
あとは重症度など見ながら、悪化の兆候に要注意だ。メモを視線を行き来し、メモが埋まる。要点が右ページにサマライズされ、次のページにその後の検査内容。近くに起こりうる合併症。
ベッドの間をぬって、調整。シローがやっと起き上がる。
「すみません。撮影行きます!」
「ああ!」
しかし心不全患者、モニターが心停止。
「DC!」
胸を叩きつつ、準備にかかった。腕を振り上げた瞬間・・・
「ぎゃあっ!」
ユウは横に吹っ飛び、尻もちをついた。
「なんだ?今の衝撃は?」
一瞬、記憶を失った。雷が落ちたような・・・。モニターをはっと振り返ると、脈は正常化。
「ゆ、夢でも見ていたのか?一瞬・・・」
近く、柱の後ろで笑う女の声。
「・・・・?幻聴まで?」
女は細丸いパッドのようなものを、両側の腰にスチャ、と静かにかけた。
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