51

2009年6月15日 連載

 まだ頭がボーッとする。だが何とか撮影を終え、気胸のチューブも入れ終わった。

「入院?」若い男がベッドで見上げる。
「ああ」
「ここで?」不安そうに周囲を見る。
「ここも、一応は入院できるらしい」

 若い男は納得してない様子。
「・・・なんかなぁ」
「そっか。おい松田!先生!」

 近くで茫然と見ている院長。
「・・・・・うちの患者だぞ」
「ですが。本人は転院を希望してますんで」
「売上げ、盗む気か?」

ユウは、いつもならここで怖気づくのだが・・・何か吹っ切れていた今は違う。

「アンタだって、俺からいろいろ盗んだろう」
「なにぃ?」

ユウは携帯を取り出し、何か命じた。

「真田から迎えが来る」
「なあユウ。もう降伏したらどうだ?お前んとこの運転資金もヤバいそうじゃないか?」
「シナジーが、そこは何とかする」
「てめえの病院が破産する前に、うちと合併・吸収されたほうがいいって。外来患者数は圧倒的にうちが上だ」
「患者だって、そのうち見抜く」

そういいつつ、呼吸器など微妙に調整する。

「入院だってな。これから物凄い数で入ることが決まってんだ!」院長は吠える。
「あ、そう」
「その時が来たら、あの人から援助を一手に受けるんだ」
「あの人?」

 ブウン、ブウンと唸るバイクの音。真田のスタッフらがノーヘル・50ccでやってきた。いや、先頭のピートだけがゴーグルをしてそれを上げた。

「じゃ、もらっていきますぜ」

 みなバイクから降り、横からよいしょと金属の長い棒を取り出した。ベッドの下にくくりつけている。

「ばば、バイクで土足のまま上がるな!」院長はわめいた。
「バイクに土足もドカタもあるかよ!」ピートはベッドとバイクを棒で接続。
「どこでも働かせないようにしてやる!」
「お前にそれができっかよ!」

 ドルン、ドルンとエンジンが唸り声。

 ユウは首を縦に振った。
「呼吸器の患者はアンビューで連れてく。ここには任せれん」
「し・・シロー!」院長は唾を吐いた。
「・・・・・」シローはうつむいた。


「シロー!やめさせろ!こいつらをやめさせろ!」
「・・・・」
「減給!減給されてもいいのか!」
「・・・・」
「ほう!いいんだな!」
「・・・・」

 シローは、ただただうつむいていた。

 ユウはその前で呟いた。
「勘違いするな。裏切り野郎」
「・・・・・」
「タダゴトでないと思ったから来た。お前を助けるためじゃない」
「・・・・・」

「縁を切る」

 ピートは指をクルクル回し、ゆっくりとベッド付バイクを走らせた。1列体制で、待合室を素通りする。大勢の患者が、引いている様子。たぶん、患者も減っていくだろう。

 ユウはアンビューを押しながら、その後ろに続いた。国道を横切り、呼吸器が運ばれてくる。

 そのユウの背中に、赤外線の点。

 藤堂ナースは、右手パッドで狙いを定めていた。左手のパッドがゆっくり宙に浮く。

 右のイヤホン、ピー!というロックオン音。

 しかし、ユウの運んだ患者の手前にシナジーら事務員が現れた。<標的>の存在は曖昧に。

「なにっ・・・」
 ナースは照準を消去した。

 シナジーらはユウらと呼吸器を接続、そのまま青信号を渡って行った。

 シローは、奥の方から見つめる。
「仲間が。仲間だ。そうだ・・・」

 力なく、その場に崩れていく。
「僕には仲間がいたんだ・・・いたんだ」

 院長は横に立ちはだかった。
「だが今のお前にはそれがない。お前が選んだ道だ」
「うう・・・」
「人生は厳しい。勝つことこそが命の使命だ。診療を再開するぞ!」

 院長は振り向いた。

 
 









コメント

最新の日記 一覧

<<  2025年5月  >>
27282930123
45678910
11121314151617
18192021222324
25262728293031

お気に入り日記の更新

最新のコメント

この日記について

日記内を検索