まだ頭がボーッとする。だが何とか撮影を終え、気胸のチューブも入れ終わった。
「入院?」若い男がベッドで見上げる。
「ああ」
「ここで?」不安そうに周囲を見る。
「ここも、一応は入院できるらしい」
若い男は納得してない様子。
「・・・なんかなぁ」
「そっか。おい松田!先生!」
近くで茫然と見ている院長。
「・・・・・うちの患者だぞ」
「ですが。本人は転院を希望してますんで」
「売上げ、盗む気か?」
ユウは、いつもならここで怖気づくのだが・・・何か吹っ切れていた今は違う。
「アンタだって、俺からいろいろ盗んだろう」
「なにぃ?」
ユウは携帯を取り出し、何か命じた。
「真田から迎えが来る」
「なあユウ。もう降伏したらどうだ?お前んとこの運転資金もヤバいそうじゃないか?」
「シナジーが、そこは何とかする」
「てめえの病院が破産する前に、うちと合併・吸収されたほうがいいって。外来患者数は圧倒的にうちが上だ」
「患者だって、そのうち見抜く」
そういいつつ、呼吸器など微妙に調整する。
「入院だってな。これから物凄い数で入ることが決まってんだ!」院長は吠える。
「あ、そう」
「その時が来たら、あの人から援助を一手に受けるんだ」
「あの人?」
ブウン、ブウンと唸るバイクの音。真田のスタッフらがノーヘル・50ccでやってきた。いや、先頭のピートだけがゴーグルをしてそれを上げた。
「じゃ、もらっていきますぜ」
みなバイクから降り、横からよいしょと金属の長い棒を取り出した。ベッドの下にくくりつけている。
「ばば、バイクで土足のまま上がるな!」院長はわめいた。
「バイクに土足もドカタもあるかよ!」ピートはベッドとバイクを棒で接続。
「どこでも働かせないようにしてやる!」
「お前にそれができっかよ!」
ドルン、ドルンとエンジンが唸り声。
ユウは首を縦に振った。
「呼吸器の患者はアンビューで連れてく。ここには任せれん」
「し・・シロー!」院長は唾を吐いた。
「・・・・・」シローはうつむいた。
「シロー!やめさせろ!こいつらをやめさせろ!」
「・・・・」
「減給!減給されてもいいのか!」
「・・・・」
「ほう!いいんだな!」
「・・・・」
シローは、ただただうつむいていた。
ユウはその前で呟いた。
「勘違いするな。裏切り野郎」
「・・・・・」
「タダゴトでないと思ったから来た。お前を助けるためじゃない」
「・・・・・」
「縁を切る」
ピートは指をクルクル回し、ゆっくりとベッド付バイクを走らせた。1列体制で、待合室を素通りする。大勢の患者が、引いている様子。たぶん、患者も減っていくだろう。
ユウはアンビューを押しながら、その後ろに続いた。国道を横切り、呼吸器が運ばれてくる。
そのユウの背中に、赤外線の点。
藤堂ナースは、右手パッドで狙いを定めていた。左手のパッドがゆっくり宙に浮く。
右のイヤホン、ピー!というロックオン音。
しかし、ユウの運んだ患者の手前にシナジーら事務員が現れた。<標的>の存在は曖昧に。
「なにっ・・・」
ナースは照準を消去した。
シナジーらはユウらと呼吸器を接続、そのまま青信号を渡って行った。
シローは、奥の方から見つめる。
「仲間が。仲間だ。そうだ・・・」
力なく、その場に崩れていく。
「僕には仲間がいたんだ・・・いたんだ」
院長は横に立ちはだかった。
「だが今のお前にはそれがない。お前が選んだ道だ」
「うう・・・」
「人生は厳しい。勝つことこそが命の使命だ。診療を再開するぞ!」
院長は振り向いた。
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