クリニックからひと仕事して戻ってきたユウを待っていたものは、みなの冷たい視線だった。
2階の事務には、いつもの賛美や拍手がない。
「久しぶりに、5人まとめてだ!あれ・・・」
「・・・・・・・」田中君は、無視してパソコンを操作している。
「どうした。田中くん」
「ハー。先生。なんてことをしてくれたんです」
「なんてって・・・やっぱり俺のカンは当たってたよ。シローがパニクってたんだ。救急を全部1人で診るように仕向けられてて」
「・・・・・・」
次々と、事務員らに囲まれる。
「でも死亡例は出なかった。あそこに任せるわけにはいかん。なのでうちにそのまま引っ張るようピートに指示して、バイクで迎えにきてもらったよ」
シナジーは輪の中に入り、ユウの頭上に影を落とした。
「あのね・・・」
「Q太郎はね」
「じゃなくて。先生」
「わかってるって。でも患者への今後の対応を考えたら」
「法律的にも、これは認められません」
「それはむしろ奴らのほうだろが!」
みな、引いた。
「真珠会グループ側の紹介搬送はギリギリ法には当たりませんが・・・」
「紹介状もつけない奴らだぞ?」
「ただ、よそに搬送されたのを無断でうちで診るのは」
「だがもう連れてきたぞ!」
田中君は残念そうに、窓の外に指を向けた。
「なに?」
ユウはダダッ、と窓を開けてベランダに出た。先ほどのベッドが事務員らによって1つずつ運ばれていく。
「あれは・・あれはどういうことだ!」
「元通りにしてるだけです」
「なにぃ?」
「クリニックから苦情の電話があったんですよ。こんなこと、マスコミにでも知れたら・・」
「いいじゃないか?そのほうが!」
シナジーは頭を掻いた。
「先生。うちとしても、1ヵ月以内に何らかの有意差をつけなくてはなりません。ここで当院のマイナスイメージが固定すれば、患者側や救急側からの足も遠のきます」
「うぅ・・・」
「ましてや、ただでさえ手薄な当院の体制です。さきほどの救急ラッシュの対応も、はっきり言って微妙でした」
ユウは振り返った。
「でもトシ坊が。トシ坊がなんとかしただろ?」
「あのケツで、何ができます?」
「まだ治ってないのか・・・」
ピートが入ってきた。
「ユウ。組織としてもっと考えるんだな」
「何?なんておい!」
ユウは飛び出したが、事務員らに両腕をつかまれた。
「ピート!あの患者らが心配だろが?彼らの行く末が!」
「俺たちはヒーローじゃない。世界を背負えない」
「視野の範囲は背負えよ!はは、はなせ!」
やっと放された。
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