シナジーは次の話に進みたく、ボールペンをイライラさせた。
「今後、救急の拒否は一切禁じます。病棟が満床でも私に連絡を。すべての患者に検査を。それでもヒマなら何とかしますので!以上!」
解散。
知らぬ間に、トシ坊が後ろに立っていた。
「うわ!びっくりしただろ!」
「先輩。勝手な行動は謹んでください」
ユウは、トシ坊の尻を丸めた新聞紙でたたいた。
「おら」
「いたあぁ!」
「男になったか!トシ坊!」
みな、それぞれの持ち場へと走って行った。
シナジーは田中と2人になった。
シナジーは上を向いた。
「ユウには内緒だが。あの女医以外は断った」
「これ以上雇うのは、うちの予算では限界ですよね」
「うちはボランティアじゃない。勘違いされても困る」
「それもまた、オーナーの?」
「いや・・・ま、そうだ。でもまだ若い医師だし、金に執着してないので助かるよ」
手洗いしている。
「行き場のない彼らはどうなるんでしょうね・・・」と田中。
「真吾先生を含め、行方不明者も多い。もうとっくに関西を離れてかもしれない」
「医者なら、働くところはいくらでもあるでしょう」
「だが関西を離れても、今の時代どこにいても所在はつかめる」
「噂もすぐ伝わるというわけですか・・」
「ああ。社会がグローバル化してきたせいだ」
「はぁ」田中はだるく答えた。
「数字化と、勝ち負けしか残らなくなったな・・・」
「まるで微分積分ですよ。とことん減らすか、限りなく増えるか」
それはのちに、<格差社会>と呼ばれる。
シナジーはチョイと近くの机上に目をやった。
「グローバル化するとだ。情報が金以上の価値を持つ」
「はぁ・・・」
「なぜなら、その情報1つでもって金を思うがままにできるからだ。ならば人を操れる」
「金は、情報の犬ってことですか?」
「ああ。飼い主の手を噛むという点でもな」
シナジーは、机の上の貯金箱をにらんだ。チワワの形。
彼はバットを持ってかまえた。
「今度の敵は、その飼い主だ!」
振り下ろし、バコーン!と粉砕。中から黒い精巧なビデオカメラが現れた。
「買い殺される前に、食い殺す!」
さらにカメラがボカーン!と潰された。
コメント