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2009年6月22日 連載
その頃。

近くの高速道路、インターチェンジの巨大な安全地帯。大きな6両トレーラーが止まったところだ。周囲に△ポールが多数配置される。配置しているのは、僻地病院で<活躍>した末端たち。

 彼らは実に仕事として効率よくやる。命令に忠実。訓練が行き届いており、無駄がない。が、そこには感情がない。すべてが順序で成り立っている。限られた時間内で最も効果を生む訓練でもしてきたというのか・・・。

 一方、病院。借金院長は言葉が止まらない。極度の緊張下の表れだ。

「過労とかなんとか言うとりますけども。今の若造はちょっと手に負えなくなったら言い訳する。わしらの頃なんか!」
「・・・・・・・・わしには何とも」
「弱気な。会長。ところでちょっと痩せられたんでは?」
「・・・・・・・・・」

 会話が、だんだん成り立たなくなる。

 インターチェンジでは、着々と準備が進む。

 まず黒い救急車が4台、2台ずつトレーラー2両目の脇を固める。この4台がまた、図形のようにキッチリ並ぶ。その上をヘリが羽ばたいていく。

 病院。

「奴らが人手不足言うてもやね?わし1人だって若造の3人分はやれますわ!」
「・・・・・・・・だから。わしには何とも」

 コンテナの両側、カタパルトが4つ開く。待機する黒い救急車、同時にサイドの窓が開いた。受け渡しの図式が完成した。何を受け渡す・・・?

 病院。

 会長は、閉じていた目をやっと開けた。

「本心で言ってるんでしょうね?」
「へ?」

 インターチェンジ。

 黒い救急車、何かを受け取った模様。サイドの扉が閉まり前方ライトが4台分ともキイイイン、といっそう光る。

 病院。会長が問う。

「本心なわけで?」
「・・・ま、まあ」
「では・・・」
「?」
「では、見せてもらおうかな!」
「なにを・・」
「日本男児の、底力というものをだ!」

 グオオン!と黒救急車が1台、また1台と高速道本線へと合流した。合計4台は列をなしていく。

 病院。妙な予感が院長の頭をよぎった。

「あわわわ?なんですの?何が始まるんですの?おどかさんといてえな!」

 院長は、小便をもらしそうにヘタった。ついでに落とした携帯電話に飛びつき、どこかへの直通ナンバーを押す。

「野中!野中君!」
<はい?だれ・・・あっ?>
「医局長なんだろ!な!医局長なんだろ!」
<そうです!どうされたんですか先生?>

 院長の口角からヨダレが真下に流れた。

「たた、大したことはないんだがな。患者が多数、押し寄せてくるような!」
<本日は医局員の大半が、研修日でして>
「研修だと?」

 そういえば、と思った。

<週1回のバイト日です>
「おのれ・・・!」

 その場合、医局は機能不全となると相場が決まっている。

「いいいい!医者を!誰でもいい!よこせ!」
<慢性的な人手不足でして・・・>

「今、ほしいんだよ!おいお前!ここに今すぐ来い!」
<先生。落ち付いてください。今、どちらに?>
「どちらにって!こら!なめとんか!」

 院長はそのまま外に出ていた。

 ヘリの風圧で、携帯が飛んだ。
「うわあ!」
 ついでにカツラも飛んだ。
「ひぃ!」

 そのヘリから、誰かが見ている。

 地上では会長が、黒服数人にガードされながら、後ろに近づいた。

「さあ先生!3人分頑張ってくださいな!かつてのあなたのように!」
「どこかの病院みたいな、仕打ちをうけさせるのか?わたしに?」
「仕打ち?とんでもない。助けるんですよ!先生の仕事ですよ?」
「ぬぅ・・・」

 やがて声もかき消されていく。

「うちのオーナーが見てますよ?」
「オーナー・・・あれが!」

 眩しい光で、へりの実態すら確認できない。このヘリから見ているのは何も足津だけではない。カメラがネットワークを通して・・・世界中の<株主>らが行く末を見守っている。


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