はるか向こうから隊員たちが、ベッドを4つ搬送してくる。まぶしいいくつものライトは、どうやら救急車のもののようだ。
院長は、茫然と立っている。会長には、結果は予測できていた。こんな臆病な医者に、患者をまともに診れる器などない。会長は慈悲のつもりで大声をはりあげた。
「ただし!あなたがもう限界というのであれば!<待機の医者>に任せてよいのですよー!」
「な、なんだ。そんなのがいるのか。でで!ではお願いします!」
会長はやはりな、とニヤリと微笑んだ。
「ただし!の2回目!」
「?」
「その前に。これに印鑑を!いんかん!」
ババババ・・とヘリの音が一瞬遠ざかったのか、意識がそれに飛んだのか。聴覚が鈍った。
「これは?」
<病院譲渡について>
「さあ早く!もう時間がない!患者さんを苦しめてでも病院を守るか!自分の限界を受け入れるか!」
「そんな・・・」
「あるいはその未熟な手で、一生を訴訟に捧げるか」
「そ、そしょう・・・」
患者が運ばれてきた。うち1人はモニターつきで、不整脈が頻発している。
「わわ!わしは循環器系は苦手だ!だいいち呼吸器グループだし!」
「何を見苦しい。まさか臨床を本気でされてなかったとか?」
「どっかへ送れ!こら!」
ベッドは10数台、もう近くまで来ている。ガラガラという車輪の音が聞こえだした。
「さあ!今決断しないと!亡くなった名誉教授が!お父様が悲しみますよ!」
「あああ!あああ!譲渡したら!私はスッカラカンか?」
本音が出た。
「単なる経営の譲渡です!だが安心して!足津理事の計らいで、あなたは株主になれる!」
「経営を見守る側になれます!」
「そ、それが見返りか?あるのか見返りが!」
「これからは!黙ってるだけで金が入る!」
「そ!そうか。リスクより、安泰だ安泰。うへへ・・・!」
実は、会長も以前同じ警告を受けて株主になった。
半狂乱で、院長は用紙をもみながら・・・ハンコを押し、サインした。
会長の首の一振りで、黒い救急車のいったん閉じた扉が、再びスライドした。走ってくる白衣の雇われ医師たち。金で買われた臨時雇いたち。無駄のない動作のもと、現場が仕切られた。
吹雪のような風の中、藤堂ナースが患者にゆっくり近づいた。
近くのモニターは不整脈が頻発、ついに心室細動へ。
ヘルプの医師らは気づき、道を開けた。
ナースの右手、アイロンのようなパッドが1メートル以上先から向けられ・・・左パッドから赤外線の赤い点がベッドの上に落ちた。
「!」
ズビビッ!と右パッドから青白いイナズマがほとばしり、患者が飛び上がった。脈は正常化。
ナースは未届け・・・シュッ、とパッドを口に近づけフッと吐息。そのまま2つ腰部にしまった。
藤堂ナースは医師らを見まわした。
「・・・・・・・・・・」
ヘリの助手席、足津は見届けた。
「・・・ヘリは戻してください。これであの機械のPRになりましたね?」
「あれがDCベルトか。すげぇ。数メートルからでも放電可能とある」後ろのマーブルが、英語のマニュアルを見る。
「今は世界にあれ1台です。手に入れるのに苦労しました。あれをサンプルに、今後は量産、兵器化します」
ヘリは急旋回し、警察のヘリの追及を逃れた。
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