58

2009年6月22日 連載

はるか向こうから隊員たちが、ベッドを4つ搬送してくる。まぶしいいくつものライトは、どうやら救急車のもののようだ。

 院長は、茫然と立っている。会長には、結果は予測できていた。こんな臆病な医者に、患者をまともに診れる器などない。会長は慈悲のつもりで大声をはりあげた。

「ただし!あなたがもう限界というのであれば!<待機の医者>に任せてよいのですよー!」
「な、なんだ。そんなのがいるのか。でで!ではお願いします!」

 会長はやはりな、とニヤリと微笑んだ。

「ただし!の2回目!」
「?」
「その前に。これに印鑑を!いんかん!」

 ババババ・・とヘリの音が一瞬遠ざかったのか、意識がそれに飛んだのか。聴覚が鈍った。

「これは?」

<病院譲渡について>

「さあ早く!もう時間がない!患者さんを苦しめてでも病院を守るか!自分の限界を受け入れるか!」
「そんな・・・」
「あるいはその未熟な手で、一生を訴訟に捧げるか」
「そ、そしょう・・・」

 患者が運ばれてきた。うち1人はモニターつきで、不整脈が頻発している。

「わわ!わしは循環器系は苦手だ!だいいち呼吸器グループだし!」
「何を見苦しい。まさか臨床を本気でされてなかったとか?」
「どっかへ送れ!こら!」

 ベッドは10数台、もう近くまで来ている。ガラガラという車輪の音が聞こえだした。

「さあ!今決断しないと!亡くなった名誉教授が!お父様が悲しみますよ!」
「あああ!あああ!譲渡したら!私はスッカラカンか?」

 本音が出た。

「単なる経営の譲渡です!だが安心して!足津理事の計らいで、あなたは株主になれる!」
「経営を見守る側になれます!」
「そ、それが見返りか?あるのか見返りが!」
「これからは!黙ってるだけで金が入る!」
「そ!そうか。リスクより、安泰だ安泰。うへへ・・・!」

 実は、会長も以前同じ警告を受けて株主になった。

 半狂乱で、院長は用紙をもみながら・・・ハンコを押し、サインした。

 会長の首の一振りで、黒い救急車のいったん閉じた扉が、再びスライドした。走ってくる白衣の雇われ医師たち。金で買われた臨時雇いたち。無駄のない動作のもと、現場が仕切られた。

 吹雪のような風の中、藤堂ナースが患者にゆっくり近づいた。

 近くのモニターは不整脈が頻発、ついに心室細動へ。
 ヘルプの医師らは気づき、道を開けた。

 ナースの右手、アイロンのようなパッドが1メートル以上先から向けられ・・・左パッドから赤外線の赤い点がベッドの上に落ちた。

「!」

 ズビビッ!と右パッドから青白いイナズマがほとばしり、患者が飛び上がった。脈は正常化。

 ナースは未届け・・・シュッ、とパッドを口に近づけフッと吐息。そのまま2つ腰部にしまった。

 藤堂ナースは医師らを見まわした。

「・・・・・・・・・・」

 ヘリの助手席、足津は見届けた。
「・・・ヘリは戻してください。これであの機械のPRになりましたね?」

「あれがDCベルトか。すげぇ。数メートルからでも放電可能とある」後ろのマーブルが、英語のマニュアルを見る。

「今は世界にあれ1台です。手に入れるのに苦労しました。あれをサンプルに、今後は量産、兵器化します」

ヘリは急旋回し、警察のヘリの追及を逃れた。



コメント

最新の日記 一覧

<<  2025年5月  >>
27282930123
45678910
11121314151617
18192021222324
25262728293031

お気に入り日記の更新

最新のコメント

この日記について

日記内を検索