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2009年6月22日 連載
 
大学病院の医局は騒然としていた。早朝のニュースで大半が知った。カンファレンスは中止。総回診も中止。みな誰もが動揺を隠せない。

ノナキーが隅でお茶を入れ、お皿で運ぶが・・チャラチャラと、どこか揺れている。

「ふぅ。まだ詳細は分からんが。またもや病院が1日で買収されて」
「病棟患者まで消えたってのは・・・」生意気な助手の、島が腕組みしている。

「もぬけの殻だ。院長らは未だ口を閉ざしたままだ」
「どうせ赤字の病院でしょ?そこを奴らが買い叩いた・・・ですかね?」

 ノナキーは心を落ち着かせるように話す。

「ま、これも一連のものだろう。関連病院がこれで、また1つ消えたわけだ!」

 医局の天井近くの白板の40ほどある病院、8つ目がX印された。

 みな、ノナキーの顔を見る。でもそこには何も書いていない。

「おいおいどうした?君らの仕事はこれから始まる。今日も患者は来るんだ。君らを必要として来るんだ」

 みな、一斉に横を向いた。プイっと無視したのではない。

「野中くん!もうちょっと腰を据えて考えようよ!」
「教授!」

 みな、立ち上がって整列した。例の新任教授が1人でやってきた。

「野中くんも、正直に話したらどうだね。うちの医局は隠れず隠さずがモットーだ」
「(一同)教授!」

「君の言うように、警察に行ってきたよ。あの身売りした院長は警察でまだ調べを受けている。少なくとも加害者ではないようだが、話そうとせんのだ」

 株主としての買収など、誰にも分からない。

「よほどプライドを傷つけたのか、強い弁護士をつけられたのか。真珠会と共謀の疑いもあるが、とにかく黙秘してて全体像が分からん。ま、かけてくれ。外来診療・検査開始は1時間の延長だ」

 みな席に座り始める。ガラガラ・・と、椅子取りゲームのように席が埋まった。

 助手がカギをし、戸口を遮る。

「ミタライ君は私もみてきたが・・・」

 教授は絶句。それ以上の言葉は凍結した。

「苦しい戦いだな・・・」

 みな静まった。

「教授会も開かれた。憶測にすぎないが、やがて大量の患者が当院にどっと押し寄せてくる可能性がある。彼らの仕業でね」
「まさか・・・」島はうろたえた。

「名誉教授の息子さんの病院も例外でなかったと私は見た。大学病院といえど、このままでは夜間は半麻痺状態だ」

くすくす、と笑い声が聞こえる。
「笑いごとか!」ノナキーが鎮める。

「真珠会とやらがどこまでからんでいるかどうか、わたしは知らん。もっと大きな黒幕の存在も感じる。とにかくどこかが、我々を潰そうとしているのは確かだ。患者を送り込んで過労に至らしめ現場を放棄させるなど、言語道断な話だ」

 教授会でよほど吹き込まれたのか、教授は感情的だった。

「うちの医局は重体が1名に重症者6名。退局者が7名。失った関連病院が8つ。職を失ったスタッフが総勢数百名。大学の学生らはマイナー志向に加速し、うちにはフレッシュマンが入らない。もう限界だよ。なぜ私の任期中に・・・」

 ノナキーはうつむいた。

「こんな動きがいきなりあったってことは・・・声明でも出たんですね?」
「うっ・・・うんまあ。そんなところだ」
「やっぱり」
「見せしめとして、まずは胸部・消化器内科がターゲットにされるようだ。婦人科や小児は送ってこない意向だ。どうやら世間の目も配慮に入れてるらしい」

 いろいろと、教授らあてに<声明>が届いているようだ。


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