大学の学生の授業はすべて休講。試験も延期。メールに加え、電話での連絡網で徹底された。そして・・・
< 特別招集 : 全職員・全学生による合同会議 >
という名目のもと、全スタッフが体育館に集められることになった。
体育館の空調はなかなか思うようにいかず・・ではない。あまりにもの人数、その熱気でその場が溢れていた。事情を知らないほとんどのスタッフは、みな興味深くその主題に聞き入ろうと待っていた。
ステージの上、有名人を歓迎するような場違いなスローガンがある・・・のは、大学祭の準備期間ということもあってだ。
マイクのテストを始めて、もう1時間になる。だが、誰も出れない。学生らが後ろを振り向くが、決して立ち去ろうとはしない。後ろには教授・講師陣が目を光らせており、出席は名簿形式。そばに「今後の単位に入れる」とある。
千人を超える人間を抱え、体育館の温度は急激に上昇しつつあった。
大学長が、スーツで端からやってくる。分かる人間に分かるのみ。そのためか、拍手は思ったほど少ない。ケンタッキーおじさん風の彼は、妙な安心感をもたらした。
「大変なことになりました。その、なりました。いや、私もね。連絡を受けたのが3日前。出張予定だったのですが、飛行機の予約も取り消しました。でもね皆さん。噂ほどは・・・誰か知ってるかな。あー君?知らない?そうか」
誰かが、マイク位置をただす。
「噂のようなことはね。決してありません。安心してください。動揺しないように。大丈夫ですよ。いいですか。いつの時代も、妙な噂を流す人がいますよね。<アメリカが攻めてきた>。とか」
(爆笑)
「患者が空から、落下傘で降ってくる」
(爆笑)
「うちのこれだけのスタッフがね。見てください。皆さんの仲間ですよ。見てみなさい。全部!」
(ざわめき)
「これだけの!いいですか。これだけのスタッフを抱える大学病院のスタッフが互いに連携すれば、24時間、いや365日間だって!回し続けることはできますよこれ絶対!私は・・断言します!」
(拍手。一部、嗚咽)
人が集まったことで、知る人ぞ知るの内容は秒単位で拡がる。しかも携帯メールで一斉に拡散される。事情はほとんどが知るところとなった。
「心配は要りません。すでに各講座の教授たちが。皆さんのために。連絡網やコール表を作成しています。もしものためのですよ。でもね。私が昨日から。背後の組織とコンタクトを取ることに成功しまして!」
(大拍手)
嘘かホントか・・・。一部の人間は鋭く見抜いた。
「交渉を始めました。彼らは、誤解を認めてました。お互い擦れ違いがあったようです」
ミタライ医師の入院している、ICU。
帽子をかぶってモニターの前で涙ぐむ医局長。助手から通じたPHS音声で聞いている。
「誤解だと・・・・?」
呼吸器が、シュパー・・・シュパー・・・とリズムをとる。
「これが、誤解ですむことなのか・・・!」
学長は進める。
「ですから皆さん。今日は特別に招集をしたわけですけども。何のことはない。皆さんは平常通り、業務をこなしてください。学生さんらも従来通り、勉学に励んでください。スタッフらは徐々に計画を立て、各部門ごとに体制を作ること!」
(大拍手)
形式だけのものに終わった。
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