4時間後。
カンファレンスルームで、ザッキーと桜田はうつむいて座っていた。何度かドアの開け閉めがあり、ユウが入ってきた。続いてトシ坊。
4人がけ、2人と2人が向かい合った。
ユウは言葉をなくしそうになった。
「桜田・・・」
「は、はい」涙がこぼれた。反省の涙なのだろうが・・・
「桜田・・・」
ユウも泣きそうだった。妙な虚無感だった。救急で大勢を救った自負もここにはない。
「スーパーで倒れてたそうだ。さきほどの中年女性・・」
うわっと女医はその場で椅子ごと横に倒れた。ザッキーは無念という風に拳を握り締めた。
「脳外科のある病院へ転送された。その後の経過はまだ分からん」
一瞬ザッキーと目が合った。双方、にらみ合った様子。
トシ坊はやっと目を開いた。
「誤診をした経験がないといえばウソになる。どの医者でもある、とは言わないまでも、あった可能性がある」
「そうだ。確実なものなど、この世にはない」ユウは誇張した。
女医は、彼らの声が聞こえないほどオエッ、オエッと吐きそうに泣いた。
夕日はとっくに沈み、電気のない部屋はいっそう暗く。しかしお互いの表情は見通せる。それで充分だ。トシ坊は続ける。
「問題点はむしろ他にある。僕らがこうして話し合うのは、君らがこの病院でこのまま、ここで・・・ここで継続して勤務したのなら。同じ過ちを繰り返さないためにすることが、あるだろう」
疑問とも感想とも取れないぎこちない口調。トシ坊も純粋に責めたくはなかった。
ドアの向こう、シナジーがもたれている。彼は・・・内容を知りながらも遠くの問題を考えていた。
「・・・・・・」
ユウは口を開けた。
「桜田。俺が言っただろ。入院が決定した患者のフォローをしろと」
「うっく・・・ふぁい」
「なんで守らなかった?」
鎮まった。
「黙ってても分からん。なんで?」
「次々と。次々と救急が」
「ハッタリ前だろが。だから何でかと聞いてる」
「お、落ち着いてたんで」
「だから!そこで勝手に判断するなボケ!」
ユウは異常に机をたたいた。トシ坊までのけぞった。
ユウは一瞬感じた。
「(怒りが・・・異常な怒りは何なんだ・・・あ、相手の意見を否定するときは、 まず相手を認めてから・・そうじゃなかったのか・・・)」
桜田はうつむいた人形と化した。
「ちっ・・・ザッキー。おいお前」
「・・・・」うらめしそうにユウを見る。
「お前。俺に恨みでもあんのか?」
「先生こそ。何の怒りをぶつけてるんです?」
「なにぃ?」
にらんだ2人は同時に立ち上がった。
シナジーが、たまらず入ってきた。
「やめなさいって!今、喧嘩してどうすんです!」
ユウは怒りが治まらなかった。ザッキーの指摘は間違いではなかった。
「俺が、何に怒ってるか知ってるのか!お前!お前だよ・・・!」
「僻地から戻って、人が変わったことに気づいてないの先生?」
「俺が変わった?」
「理由は分かってますよ。自分らが今まで築いたものに、裏切られたからだ!」
ユウは背中から取り出したチューブで、ズバーン!とザッキーの腕を叩いた。
「うわああああ!」
シナジーはユウの膝を蹴った。
「暴力医者!」
「いつっ!」
女医以外、みな床に倒れてしまった。
女医の泣き声が、だんだん高鳴っていった。
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