ユウはふたたび事務室に入った。
「おい田中くん!今の、大平のアイデアなんだって?」
「ええ!」
画面のようなものがパソコンに浮上した。動画ソフトの再生のようだ。
「でもユウ先生。オフレコですよ!」
田中はボタンをクリックし、再生を待った。
だが・・・画面はいっこうに映らない。
「田中くん。何も映ってないけど」
「ああ、音だけです」
「隠しマイクか?」
「ビデオのような予算はとても・・・」
音声もノイズが多く、田中は音声をギリギリ一杯にまで上げた。
<ジジジジ・・・・・・シャ、シャ・・・シュ>
ユウは田中の後ろからのぞきこんだ。
「目には目を、か。さすが大平。僻地で頑張っただけはある!」
「皮肉ですか?」
「・・・・・・」
「事務室内スピーカーに、つなぎますね!」
そのとき、
<ワン!ブー!>
「(一同)うわああああっ!」みな、のけぞった。
どうやら犬の鳴き声と、その・・・
「オナラか?」ユウは指摘したが、周囲が「シー!」と促した。
「(一同)・・・・・」
<トン・・・トン・・・ドサッ・・・・あ~!疲れたぁ・・・>
女の声だ。
ザッキーが興奮した。
「この声!ねえこの声!」
「うるさいぞザッキー!」ユウは張り上げた。
「あの声ですよあの声!」
「るせえ!」
「僕が胸をつかんだ、あの女ですよ!」
周囲がギクリと固まった。
「あ。いや。そうじゃなくて」ザッキーはうろたえた。
「知ってる。僻地にいた不審者だろ?」ユウは答えた。
「そう、そいつの声ですって。なんでここに・・・?」
「さあ」
「さあって・・・」
女医が耳を澄ましていた。目を閉じている。
「だとしたら、ファンドの部隊員かもしれません」
「えっ?」シナジーは眼を丸くした。
「手から電気を出すのが得意技とか」
シナジー、ザッキー、ユウ、田中は目を合わせた。
「(4人)あのときの奴だ・・・!」
ユウはザッキーに問いかけた。
「ザッキー。他に何か特徴はなかったか?」
「胸がDカップくらいってことしか」
「おい!真剣に聞いてんだぞ!」
さらにミチル師長が入ってきた。
「お前ら患者さんもろくに診ずに、ここで何がDカップや!」
田中はパソコンソフトを閉じ、音声は終了した。ユウはミチルに首をつかまれた。
「今日は患者さんの家族が、はるばる静岡からお越しや!」
「き、今日はいないと言ってくれよ!」
「あと3時間したら着くから、それまで回診しときいや!」
「うわあああっ!」
師長とユウは消えた。田中はイヤホンで聞いていくことに。
大平は、近くに立っている女医を気遣った。
「しんどい?」
「いえ・・大丈夫です」
「ユウに、かなり言われてんだろ?トロいとか」腰のペットボトルにストローを通す。
「はいでも・・・大丈夫です!」
大平は飲んだ後、一息ついた。
「俺は絶対に、ここの病院を仕切ってみせる」
「はい・・・」
「それくらい背負うつもりで!頑張るんだよ!」
彼女の肩を叩いた。
「大平さんは・・・どうしていつも前向きなんですか」
心臓が張り裂けそうなほど、やっと言葉が出た。
「えー?俺かー?照れるなー!」
「どこからそういう力が出るのかうらやましくって・・・あっ!決して変な意味じゃ!」
「こう見えても、腹の中では何考えてんのか」
「・・・・・」
「骨盤部のCT取ったら、けっこう黒いかもしれないよ。こいつはやっぱり腹黒いってね。あっはは!」
桜田は照れて、うつむいた。
「あたしはここで、空気のような存在になってる。それでも誰かに・・誰かに気にされてたい・・・」
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