横断歩道を隔てて、向かい合う2つの病院。静かなのは、互いの信号が赤だから。それもすぐ、青になる。
バコーン!と生け垣の上半分がなぎ倒され、タイヤが宙でクルクル回り・・・着地した。
「イーハー!」運転手の藤堂ナースではなく・・後ろの外人だ。ヒッピーのような格好。藤堂ナースはゴーグルを深くかぶった。
そのあとわずかに時差をつけ、田中とユウの乗るドクターカーが飛び出した。勢い余り、ガタンとバンパーが前面に火花を散らす。
「田中くん!そっちじゃない反対だ!」
「おっとそうだった!」急いで切り返す。
「大丈夫かな・・・」
「見失わなきゃ、いいんでしょ!」
サイレンを鳴らせば気付かれるため、追跡は控え目で行くことに。
「だったらこの車じゃあ、余計目立つだろうよ・・」ユウは助手席で指摘した。
「塗装は変更してます!」
事務室では、コールセンター並みの回線混雑。事務員らがワン切りのごとくかけまくる。
「失礼しました!」「そちらで、患者さんの受け入れ希望などは?失礼しました!」
シナジーはパソコンで、ユウらの行方を見守る。GPSの表示が頼りだ。
「こうやって標的の病院を探しても、気休めにすぎんか・・・!」
パッと横を見ると、ガラス窓ごしに次々と医師らが滑走台を降りていく。3人が今しがた滑り下り、さらに後ろ足で砂を蹴った。
トシ坊はじめ3人が出て、視界を埋め尽くす救急車が出現。
「重症と思ったらまずそこから!」
早速、トシ坊は背中のチューブをシャキーン!と抜き肩のパッドにひっつけた。肩のパッドは大きめだが、とりあえず準備物を置くのに便利だ。
ザッキーは救急車の間を自転車であちこち走り、重症を1人とりかかる。眼科医は比較的軽症を。でも数をこなすよう努める。ピートは・・・検査と決めたのか、2人同時に運んで行く。
最初に滑走した大平と、女医が蘇生中。大平は汗をぬぐう。
「これは・・ダメかもしれないな!」
「でも!」女医はパッドを構えた。
「おおっと!」大平は離れた。
「やってみないと!」
ズバン!と高齢男性が浮いた。脈は・・
「そうだな!」触れる。一時的か・・・。
大平は近くのベッドを足で受け止めた。
「こっちは腹痛!押したら?」
「痛いってのに!」
「検査だ!桜田!」
桜田は、再び心停止の患者に再びDCを準備。
「ああ!もう1回!これしてから!」
「あとは俺が1人でやる!検査に連れてけ!あと1人もだ!」
大平はベッドにくっつけたメモに内容を記した。
「早く!運んだら戻ってこい!」
「ナースを来させたら!」ドスン!と試みるが・・戻らず。
「桜田・・・」
そのナースらは、びびってしまって玄関前でオドオドしている。
眼科医が別の2台を引っ張ってきた。軽症と分かり、ナースらは緊張が少し取れる。
「ブヒブヒ!」
運んで行く。眼科医は戻る。
ピートは腰につけたモニターで、不整脈を確認。
「トシ坊!この不整脈を頼む!」
「はいっ!ザッキーは?」携帯をかける。「病院より向かって外側前方!」
キイイ!と車輪のスリップ音。ザッキーのオバサン自転車が飛び越えてきた。
「すぐそこです!」
「DC!300ジュール!300!」
「離れて!」トシ坊離れ、ピート・トシ坊かわす。パン!と火花の音。
桜田は、いっこうに戻らない蘇生をずっと続けていた。大平は次の重症にすでにとりかかっている。
「はぁ、はぁ、はぁ・・・」
尋常でないような表情で、彼女は両手をもう1回クロスさせた。ゼリーの上で滑る両手の上に、大粒の汗。
照りつける太陽。
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