果てしなく続く坂。生駒山の険しい急カーブが連続する。真田病院では、ある程度の病院名がしぼれた。
シナジーは5つほどリストアップする。
「東大阪市だと大変なところだったが、どうやら山の向こうのようだ。だとすればかなり少数にしぼられる」
事務員らが5人、同時に電話をかけ始める。だが1人ずつ・・虚しさとともに自信なげに受話器を置いた。
「も・・・もう一度!かけるんだよ!」シナジーは苛立った。
バイクは中腹よりやや上。そのカーブで停車した。後ろの外人は立つと、ジャージ姿。その足元にある大きな袋から・・車輪。
「藤堂サマ。アトはドウゾ。カレラをユードーします」
「・・・・頼むわよ」
半分オフになりかけの泥道、後輪でギュルルン!と泥を振りまく。彼らを待ち受けるつもりなのか。
同じくショートカットの外人男性は、瞬く間に2輪の自転車を完成させた。折りたたみ自転車を組み立てただけだが。
バイクは脇から発生する山道をゆっくりと降りはじめていった。整備がされておらず、転倒の危険が大きい。むろん地図にも載ってない。
外人が自転車にまたがり振り向くと、ドクターカーが現れた。
「ハールよ、コイ。ハーヤクコイ!」彼が唯一覚えた日本の歌。
チャッ!と山道を降りかけ、ドクターカーも乗り込みかけたが・・・
「田中くんやめろ!通れないだろ!」
両側は樹木の枝が無数にある。バキバキバキと何本かクリアしたが、何度もガツン、ガツンとせき止められる。
「それでも行くのか?」
「・・・・・」必死で声なし。
「スレッガーさん。やべえ!やべえよ!」
前方の自転車は、悠々と滑っていく。何度も振り返りながら。ドクターカーはもう原形をとどめていない。間違いなく廃車だろう。そう思うとユウは気が楽だった。はずもない。
「俺らが、たてかえな、いかんのかな・・・」
バコン!バキン!と自然を壊しながら、ドクターカーは40度斜面を滑って行った。信じられないくらいの段差が唐突に出現。
「(2人)うわーっ!」
ズドン!と車底が当たり、ケツに響く。頭が天井にぶつかる。マジックボールのほうがマシだった。
「道が広くなってきたな・・おいあれ!」ユウは左を指さした。
自転車が、並走している。平地で走りやすくなった。彼は何やら必死で喋っているが、こちらには全く聞こえない。
「あー?なにー?」
「クラエ!」
「くらえ?ああ、<喰らえ>ね。はいはい。なにっ?」
両手手放しの外人は、カゴの中からパッドをニューッと伸ばした。こっちへ・・・
「わわ!おい近づくな!来るな!」
「どうしたんです!」田中が動揺する。
「右へ寄れ!田中くん!」
「精一杯ですよ!」
「電気が!電気!」
ライトが点く。まだ昼間。
「バカ!ライトつけてどうすんだ!」
外人は歯ぐきむき出しで、斜めにこっちに近づいてくる。
「カンデンシテ、シネ!」
バン!といったん助手席へ当たった。ユウは観念した。
「ひっ!あ、当たっただけか!」
「何が?」田中は苛立った。
「あたったたた!あたたた!」呂律が狂う。
「こんなときに北斗の拳ですか!」
ユウは正気に戻り、白衣に手をやった。ペンライトなどを投げつけるが、全くの見当違いの方向。
「ハッハッハー!ジャップもタイシタコト、ネーナー!」
「日本語うまいな!」
ユウは狙いを定め、丸めた聴診器をロープにつなげ、垂らした。
「そら!」
「ナニッ?」
前輪に違和感。感じた時には遅かった。気付いた時は、逆ウイリーで宙を舞っていた。
「オオオ!オマエエエエ!」
ミラーで、背後の転倒を確認した。ユウは首をポキポキと鳴らした。
「<お前>は、やめてください・・・」
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