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2009年6月30日 連載
 ノナキーが画面を切ると、近くでかがんでいた助手らが立ち上がった。島が先陣を切る。

「野中先生。あのコンサルタント、生意気で僕嫌いです。医者の派遣の方が」
「大丈夫。事務側を仕切らせたら、彼らもここに呼び寄せるから」

 みな、不安そうに見下ろす。島は物足りない。

「真田の奴らにやらせましょうよ。先生。僕らは論文や実験どころじゃないですよ?」
「わかってる」
「手当の問題も・・・」
「その話は教授に言ってある!」

 意外にも、島という医者は学生結婚で・・子供はすでに大きかった。

「時間外で大学のメンツを守るんですから。それなりの報酬がないと」
「だから。教授には!」ノナキーはくたびれた。
「僕だけじゃないですよ。他の助手だって。あそこにいる先生は子供が医学部に入って金が要るって」

 ノナキーは顔を洗い始めた。不満タラタラの島は、どう考えてもみんなの期待を背負っている。

 みな病院で年をとるうち親になる。子育てといってる間はまだいいが、子供が塾に行き出してから出費が加速する。中学受験、高校受験へと・・・医学部進学をほとんどが望む。子供も自ずと望む運命にある。私立に進学すると年間数百万に、車や交際費などいろいろかかる。

 ここの医局員で助手として頑張ってる彼らの大半がそうで、常に不安を抱えて生活している。患者を守りチャンスも待つ。代償を求めてではない。それは分かってる。だが年をとるごとに思うのだ。<ひょっとして、俺はいいようにされてるんじゃないか?>と・・・。

「野中先生が、血を吐けっていうなら吐きますよ。でも、割に合わなさすぎることは・・・」
「ストライキでも、するのか?」
「えっ・・・」

ノナキーは顔を拭いて、今度は冷蔵庫を開けた。みな、亡霊のように追いかける。

「それはしません。ただ先生。みなギリギリの生活なんで・・・」
「院生みたいに、バイト漬けになりたいか?」
「それも嫌ですけど・・・」
「だったら。文句を言うな」
「・・・・・」

ノナキーは反撃に出る。

「なぜ、お前は医者になった?」
「僕・・ですか?」
「点数が良かったからか?」
「理由・・・ですか?理由・・」

あちこち見まわすが、誰も代わりに答えはしない。

「モテたいからか?」
「いえ!いいえ!そんな!僕は・・・人を助けたい」
語尾がフェードアウトした。

「そうか。じゃ、がんばれ!」

みな、肩を落とした。

「君らも島みたいに、初心を忘れるな!」

 何とも気まずい収め方だった。しかしローコストで再度統制を図れた。みな、次の診療に向かう。

 ノナキーは、やっと胸をなでおろした。ユウの質問。何よりも恐れていた。

 しかしその日、ユウはその質問を思い出していた。

「そうだ。ノナキー・・・ミタライ。ミタライは今・・・」

 でも夜中だったので、そのまま目を閉じた。




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