クリニックでは、松田院長が怒りまくっていた。患者の忘れたステッキで、花瓶や花壇、本箱を叩き続ける。
「くそおうやあ!」
「(スタッフ一同)ひいいいっ!」
ガシャン、ガシャーンと水があちこちで散る。
「んがああ!」
「(スタッフ一同)うわあああぁ!」
ハー、ハーと院長は肩で息をおさめた。
「ふ~。どうなってんねや!あのクズ女!うちに入るはずの患者を!患者をやぞ?」
「・・・・・」カーテンごしに、シローは座って聞いていた。
「オレらから横取りして、横流し・・・あの真珠会に!俺の病院はな!何もあそこの下請けやないんやぞ!」
近くに辞表が置いてある。中身にはこう書いてあった。
<To BEE or Not To BE>
「ハン!綴り間違っとるわあのバカ女!」
そこにある深い意味も、知る由もなかった。
「しかし・・・ノルマがな。あれらを入れんとノルマがな・・ノルマがああああ!」
狂ったように電話キーを押す。震えるため、何度も間違える。
なんとか4度目でつながった。
<真珠会。会員番号を>
「信者番号。928357938!内線3!」
<かしこまりました>
しばらく、間あり。
「足津の秘書ですが。何か?」
「おいおいおい!足津につながんか!さっさと!」
「ご用件を。足津はただいまお忙しいので」
「チッ!一夫一妻性かよ・・・!」
「お待ちください。出られます。3分以内で話題は最小限で」
「ケッ!」
間。
「足津です」
「患者をおい!どういうことなんだ俺たちの患者だぞ!わかってるぞ。真珠会に隠したな?」
「・・・・・」
「真田をつぶすまで、協力してくれるんじゃなかったのか!」
「・・・・・」
「なああと!2週間それだけでもいいからよ!あとで真珠会から転院でもいいからさ、なっ!」
「契約上、それはない内容です」
「なにい?今まで、どこの誰のおかげで順調に患者を提供できたと思ってるんだ!」
確かに、このクリニックには無尽蔵の患者カルテが眠る。
「総合的に判断し、最善事項を優先としました」
「何をわけわからんことを!」
「それと、シロー先生の保有権利はこちらが受け継ぎます。では失礼します」
電話は切れた。クリニックが孤立した瞬間だった。
「ぬぅ~!」
勤務終了で、各職員があちこち電気を消そうとした。
「おい待て!」
「きゃ!」ナースが1人、転倒した。
「ならんならん!この売り上げではならん!帰ることは許さん!」
バアッ!と書類が宙に舞った。
「あと2週間!真田外来はセカンドオピニオンで追撃しようとしている!サードオピニオン攻撃でいくぞ!」
シローが現れた。
「サード・オピニオン?それってどんな・・・」
ハアハァと息を切らし、院長が視界に飛び込んできた。
「わかっとろうが!こっちの診断を覆えされたその患者に電話し、さらにここで説明すんねや!」
「そんな無茶な・・・!」
「とにかく!こちらの症例を相談しているセカンドオピニオン症例をチェックして!ここへ連行、ここへ戻して教育を行うんや!」
「強引ですよ!」
「歯向かうのか!シロー!親子水入らずで過ごしたいならなお前!」
「う」
「手段を選んではいかんいかん。こうなったら、こちらのキャパシティ云々ではない。救急外来を見かけ上開け放ち、絶えず玉入り状態にするんや!俺とお前で!」
高齢ナースらは、そそくさと外に出た。
「待たんかい!そのためには雰囲気づくりや!徹夜でやるで!おい!戻れ!」
「ひっ!」ビクッと反応した私服ナースは一斉に立ち止まった。
「戻れっちゅうねんや!」烈火のごとく、院長は声を張り上げた。
彼はもう、正気ではなかった。
「やったる・・やったるでぇ・・・へへへ!」
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