駐車場に、ボロボロになったGT-Rが停車。ユウは窓をスライドした。
「なんかうち・・・増えてきたんじゃないか?患者・・・よかったじゃないか」
再発進し、病院の狭い真横を徐行、職員駐車場へ。
トシ坊のBMWがちょうど駐車中。こちらは買い替えてピッカピカだ。
「おい、とっととやれ!」
「・・・・・」トシ坊はマイペースで、何度もハンドルを切り続けた。
「木だけじゃなく、森を見ろ!森を・・・!」
何度も携帯がバイブしている。シナジーだ。もう、このまま直接向かう。
シナジーは、これで5回目の携帯を鳴らした。
「くそっ!何してるんだ!サンダル!」
「おい」
「わああ!」
「サンダルで悪かったな!」
「な、なんですか!」
「何ですかはないだろ。そっちから呼んどいて!」
シナジーは早速、本題に入った。
「先生のホモダチからです。さきほど連絡が」
「ホモダチ?」
「大学病院の、野中講師です」
「あとで覚えとけ!でもちょうどよかった!」
「は?」
「あいつに聞きたいことがある!」
電話するが、不在とのこと。
シナジーはちょっと咳払いした。
「ほん!<大学での体制は整った。あとは真田病院、ユウ先生らの救援到着時間を連絡されたし>とのことです」
「それ、この前パソコンで言ってただろ?」
「急げってことですよ」
「ノナキー・・・オレんとこへ、直接電話すりゃいいのに・・・」
だが思い出した。大学の業務連絡はすべて基幹病院を優先での連絡網を通じることになった。行き違いがあったらトラブルのもとだ。だからまあ、これでいい。
「で。明日にでも出発か?」
「うちから派遣するのは常勤医師の半分。外来・救急は縮小します。仕方ない・・」
「残念そうだな」
「業務を縮小するような余裕なんて、当院にはないですよ!」
正面のクリニックを見る。ユウは確信した。
「やはり病棟には、患者はいないとみた・・・!」
あのクリニックが何とかなれば・・・。
「それこそ仕方ないでしょう!」トシ坊の声。
「だる・・・朝から」
「当院が引き受けたことなんですから!一貫してやりましょう!大学への協力を!」
「ひぃ~・・・いやだよこんなハリキリ野郎」
シナジーはワンテンポ遅れて頷いた。
パソコンに、大きなマップが映る。
「当院からの救援部隊は明日の朝7時にここを出発。私は今日、一足お先に。それまでに各病棟への顔出し、お願いいたします。ミチル師長にも懺悔を」
「朝の7時?その前に回診っておい。何時に来ればいいと思ってるんだ?」ユウは冗談まじりに突っ込んだ。
「ラッシュアワーを避け、大学病院までの所要時間は1時間。ていうか、今日はもうここに泊まったら?」
「向こうへは、各自の乗用車でか?」
「地下のトレーラーで向かいます」
「また乗るのか!あれに!」
「大学病院到着後、通常業務のヘルプを」
「ヘルプ?大学で下働きもすんのか?」
「だって、そうしてくれって」
「聞いてないぞ!いま聞いたけど!」
その間、真田は大丈夫なのか・・・?
トシ坊はため息をついた。
「ユウ先生。真珠会が救急を送り出す、仮定の日ですよあくまで。何もない間は、大学をサポートする約束です」
「何もないままだったら・・・?」
シナジーはマップを消去した。
「猶予は3日間。その間を、彼らは予告しています」
「で。それがいつまで続くんだ?」
「彼らが非人道的なその行為を実行した場合、医師会が協力してくれます」
「ホントかよ?」
「近辺の病院が3箇所ある。医師会が振り分けてくれます」
「死んでも建前守る奴らだからな・・・はたしてどうか」
そろそろ1階が騒がしくなってきた。みな、それぞれ回診に向かう。
しかし、どのカルテも大平が書いてくれている。
「あいつ、たったこれだけの時間に・・・あれ?この字」
「桜田先生の字もあるでしょう?」
「オーベン・コベンの、いいコンビじゃないか。こっちの手間が省けた」
もちろん、誰もこの<男女の関係>までは知らない。
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