大学病院の医局。医局長のノナキーが演説。
「明日のことに備えて、新玄関を今日より開放する。ただし今日の出入りは一部の関係者だけだ」
「はい!」イエスマンの島が気をつけの姿勢。
彼が打って変わって張り切っているのは・・・補助金の支給が決まったことが影響している。もちろん、それなりの大役を引き受けたからだが。だが実質、仕事は真田の人間らに押しつける寸法だった。
「医局棟から新エレベーターで降り、2階で停まる。そのまま正面の新廊下を走り、急ぎの場合はオートウォークで向かう」
地図がもう貼ってある。
「オートウォークを過ぎたら、急斜面手前の長椅子で待機。7人まで」
「はい!」
「イヤホン合図で一斉に長椅子が倒れるので気をつけろ。で、各自が滑り台を同時に滑走する」
「(一同)すげええ!」
「ついこの前破産した、真田病院の関連病院の遺物を改良したものだ」
足音に、みな振り向く。
「(一同)おはようございます!」
「うむ。全員揃ったな!」新教授だ。ノナキーは気をつけ。
「いよいよ、来ましたね!」
「大学病院のシステムが、試されるときが来たな!」
と、島がPHSを切り、走り出した。ノナキーがしかめる。
「こら!廊下を走るな!」
「学生が遊んでんですよ!」
「学生が?」
「新玄関で!」
教授は着かけた白衣を、ジョン・ウー風に大回しで羽織った。
島はさきほどの説明通り、オートウォークの上を走った。止まり、いったん靴ひも。
「事務の奴らもよぉ!連絡だけが仕事かよぉ!」
壁のポスターなどが横目で流れる。
終点が近づく。
「教授就任への代償は高いな!」
この夢でもって、生きている。
完成の際の、黄色いテープを振り払う。勢いでダッシュし、長椅子を目指す。
「あれだな!」
その長椅子を、2人の私服の若者が飛び越える。
「(2人)ヤッハー!」
「おのれ貴様ら!退学ものだぞ!」
島は勢い余って、長椅子に出た腹をぶつけた。下一面、視界に広がるのは・・・
「でけえ滑り台だなこりゃ!」
7つのレーン、ほぼ両端を若者が下を凸のカーブで滑走している。そのままジャンプ。呆気に取られる。どうやら学生というより・・ストリートの若造たちといった感じだ。
ジャンプした私服2人は・・・そのまま砂場らしきものに着地。ズササ、とスキーの着地のようだ。思わず「きまった!」と言うところだった。
「おーい!遊び場じゃないぞ!どこのどいつらだ!」
島は滑り台を滑るべく、どっこいしょっと腰をかけた。
「・・・・・・」
前髪で顔が隠れた長身たちは、微動だにしない。いや、何かを見てかたまっている。その視線の先は島の・・・
間後ろに立ちはだかる影にあった。
「おめーらな!学長にこのこと伝えてだな!救急ラッシュの際はお茶くみ係に降格だ!俺らの班には野郎は不要だけどよ!」
うっ、と声を出す暇もなかった。あ、落とされた。思考がそう反射しただけだ。
「あちっ!」
背中に痛みを思い知りながら、島は自ら加速し落ちていく。
「いてえ!何があったんだ教えろよ!」
長身の2人は、屋台のようなワゴンを終点に設置した。
「どけどけどけ!どかせえ!」
「・・・・・」
2人は無情にも、消えた。
「あああああ!でもこれで死ぬのか?違うよな」
「な」と同時に、屋台は90度横倒し、様々な医療品が吹き飛んだ。ドカーンと音が止むまでもなく、彼は銀色の医療品に紛れたまま、グルグルと回転した。
新玄関のガラスはドカーン、とまき散らされた。
「きゃああああ!」外来の患者らが取り巻いた。
近くでつながれた犬の耳横、カメラがズームする。
島は背中に手をやった。プス、と引き抜かれる針。
「ちゅ、注射針・・・」
先端に自分の血。
「ダーツの的かよ・・・」
ガクッ、と島は気絶した。
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